第178回 ショッピングは国内で 【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第178回 ショッピングは国内で 【北京駐在員事務所から】

経済成長の減速が続く中国では、輸出とインフラ整備に依存した国内経済の体質を消費主導型に転換しようと、政府が躍起になっています。
ところが、海外への旅行客が急増し、日本では電化製品、医薬品や化粧品を、また欧米諸国では時計、宝飾品やブランド品などを大量に購入するようになり、成長の原動力となるべき消費が海外に流出していると指摘されています。

中国政府の商務部(日本の経済産業省に相当)の推計によると、昨年2015年に、中国人が海外で消費した金額は約1.2兆元(約18兆円)に達したそうです。
この金額には買物だけではなく、宿泊、観光や飲食の費用も含みますが、一部でも国内で消費させたい政府は、輸入品に課せられる関税の引下げを行う一方、旅行者が海外から持ち込む商品に課す関税については、逆に税率を引き上げるという、いささか露骨とも思える政策変更を行い、「海外で購入するのではなく、輸入品を国内で購入して」と訴えています。
政策変更に呼応する形で、日本の化粧品、日用品メーカー各社は、中国の大手ネット通販のサイトに出店し、「日本からの直輸入品」を売りに消費者にアピールしています。自由貿易試験区などの新たな政策により、通関や物流の面で優遇が受けられることも、各社の進出を後押ししています。

さらに消費を取り込もうということで、政府の国務院(日本の内閣府に相当)傘下の組織「中国出国人員服務総公司」はこのほど、上海に海外からの帰国者向けの免税店を開業しました。
16歳以上で、最近180日以内に海外から帰国した中国人が、同店で免税での商品購入ができるとのことです。
「免税ショッピングは旅行先でではなく、帰国後に上海で」という訳です。店舗は2階建てで、100以上のブランドを取扱うほか、空港の免税店などでは販売していない離乳食、家電製品、玩具などの品揃えを充実させ、来店客のニーズに応えるとしています。
開店初日には、朝から多くの客が訪れ、入店の制限を行ったそうです。
早速訪れた32歳の女性は、化粧品や菓子などの価格が一般の商店よりも安価で、かつ欲しい時にすぐに入手できるので有難いと話していました。
「海外からの帰国者限定」ですので、地方都市などへの出店は難しそうですが、今後北京などの大都市では、同様の店舗が開設されるのではないかと思われます。

消費を国内に呼び戻すための政府の「なりふり構わぬ」政策が目立つのですが、中国では「海外ブランド製品でも、本国製と中国製では品質が違う」あるいは「中国に輸出されている製品は本国で販売されているものよりも品質が劣る」等の不信感があり、海外旅行の機会に中国国外で購入したいとのニーズが根強くあります。
ブランド品や宝飾品などでは、偽物を掴まされることへの懸念も強いため、致し方ないところではあります。
関税等の変更は「小手先」に過ぎず、根本的には中国の製造業のレベルアップと、偽物の取引、販売を許容しない流通制度の整備が求められるところです。
過去、日本も長い時間をかけて実現したものですが、中国でも、消費者が国内製品あるいは国内で流通する商品を安心して購入できるようになって欲しいものです。

日本がそうであったように、中国人海外旅行客も、「通り一遍の観光、食事と買物」から、よりピンポイントで各自のニーズを満たす旅に移行していくものと思います。
関連の業界にとっては、対応がどんどん難しくなって行きますが、是非旅行客のニーズに合う商品、サービスを提供し、リピーターを呼び込めるようになって欲しいものです。

中国人の消費動向は、日本企業、日系企業に与える影響も大きく、これからも注目して行きたいと思います。

=====================================

コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

マネックスからのご留意事項

「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

マネックスメール登録・解除

コラム一覧