第180回 環境関連規制の徹底 【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第180回 環境関連規制の徹底 【北京駐在員事務所から】

経済発展が続く中国では、工場や鉱山での生産活動、都市開発や自動車の増加に伴い、大気、土壌や水の汚染が深刻な社会問題になっています。高度経済成長期の日本と同様の状況です。
北京など大都市では、健康への影響に対する認識が高まりつつあり、様々な対策が取られ改善の兆しも見られるのですが、発展が遅れている地方ほど「経済成長が第一、環境対策など二の次、三の次」という姿勢が顕著で、環境汚染問題への対応には温度差が目立ちます。自動車の排気ガス規制や、販売されるガソリンの品質に関する基準が全国一律でなく、都市部では厳格である一方、地方では緩いことなどは、この温度差の典型例と言えます。

工場などの事業者はもちろんですが、地方政府も「環境汚染対策も重要だが、成長の足を引っ張る訳には行かない」ということで板挟みとなっており、規制や取締りの強化には後ろ向きの姿勢が目立つと指摘されています。
政府の環境保護部(日本の環境省に相当)は、本年7月に14の省及び自治区に検査官を派遣し、各地方政府が関係法令を適切に施行し、規制が順守されているかについての調査を行いました。
その結果、1万件を超える違反事例が発見され、2,000名の地方政府職員が、職務怠慢等により停職、訓戒あるいは昇格停止等の処分を受けました。
汚染物質を排出した事業者への罰則も強化され、一部の省では、徴収した罰金の金額が1億元(約15億円)を超えたそうです。

中には悪質な事例も見られ、内陸部の寧夏回族自治区では、塵灰を違法に排出していた金属精錬工場について、地元政府が「昨年8月に閉鎖済」と報告していたにもかかわらず、操業が続いていました。賄賂のやり取りがあったであろうことが容易に想像できます。

法律専門家は、今回の中央政府による調査と罰則の適用について、効果を挙げており、今回対象とならなかった省、自治区の政府及び事業者に「法令順守を怠れば厳しい罰」という意識を植え付けることに成功していると評価しています。
調査を受けた省の一部では、地方政府が環境保護を担当する組織の態勢を強化するなど、前向きな動きも見られるとのことです。

「法令順守の徹底が図られる」という話ですので、喜ぶべきことなのでしょうが、上述の通り、国内の経済及び発展度合いの差が大きいことから、これが縮小しない限り、地方政府のジレンマは続きます。
特に、近年経済成長の鈍化傾向が顕著なことから、発展が遅れた地方の政府が持つ危機感は強いものがあります。
中央政府は、規制の強化と言う「ムチ」と、地方発展の支援策と言う「アメ」を適切に併用し、地方の不満を和らげる必要があります。また、習近平政権が力を入れている汚職の撲滅をどの程度徹底できるかも問われています。

前回の本コラムでご報告しました喫煙習慣なども、大都市と地方で大きな差が存在します。社会の様々な面で、中国が抱える多様性、複雑性が見られ、政策の実施が難しいものとなっています。政府の舵取りが注目されるところです。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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