マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場はまたも膠着感が蔓延しています。米大統領選の動向や欧州における大手銀行の危機懸念といった材料がまだまだ山積みで、消化難というのが実際のところではないでしょうか。国内景気もどうもはっきりしない状況にあります。そろそろ株式市場は中間決算動向にも注目を始めるタイミングですが、しばらくは材料を一つ一つ消化していく一進一退の展開が続くように感じています。
さて、今回は「日本銀行株」をテーマに採り上げたいと思います。流石に日本銀行株が株式市場を席巻するテーマとはならないでしょうが(笑)、実はなかなか示唆に富んだ動きをしているのです。今回はそれらの背景を解きほぐしながら、今後の株式市場を考える材料にしてみましょう。ご記憶の方も多いように、日本銀行はシルバーウィークの最中、政策決定会合によってイールドカーブコントロール(長期金利ターゲット)へと政策の軸足をシフトさせました。アベノミクスに併せ、これまで日銀はデフレ脱却に向けて積極的に金融緩和を推し進めてきました。国債買い入れや株式購入などがその代表的な施策でした。結果的に、こういった政策が通貨安や金利低下、さらには株価上昇に繋がっていったことは周知の通りです。その後、さらに政策金利としてマイナス金利も導入しています。なかなか完遂できないデフレ退治に向けて、まさに「異次元」の金融緩和を進めてきたのです。
しかし、前回の決定会合により、金融緩和は継続するものの、長期金利に対しては設定目標を置きましょうという方針に転換したのです。そもそも金利は市中相場で決まるものであり、日銀が決めるものではありません。マイナス金利導入により、長期金利までもがマイナス化したのはその典型で(その結果、金融機関には逆風が吹く)、日銀にとっても予想外の展開だったのでしょう。この弊害を解消したいというのが設定目標を置くという意図なのだと推察します。とはいえ、現在はマイナス下にある金利よりも高い水準(0%)への目標設定というのは、事実上の金利引き上げ誘導と言えます。金利低下(円安)を促す金融緩和を継続しつつ、金利引き上げ誘導(円高を誘発)を行うというのは、単純に考えて至難の業以外の何物でもありません。株式市場は金融緩和継続を一旦は好感しましたが、その後は揉み合いという展開にあります。これは、この難しいハンドル捌きへの懸念が重石になっているのかもしれません。
さて、今回注目する日本銀行株です(正確には株式ではなく、出資証券)。日銀は「政府機関ではない」との前提から資本金の45%は民間からの資金で形成されており、その出資証券は上場されています。営利企業ではないため、利益成長に投資をするというスタンスとは違ってきますが、倒産リスクの極めて低い銘柄として日銀株は広く認識されているのです。その日銀株の過去最高値は74.5万円。これを付けたのは平成バブル絶頂期の1989年でした。それ以降、下落傾向に転じ、アベノミクス前夜となる2012年には27年ぶりとなる30,500円まで下落しています(史上最安値は1984年に18,000円)。そこから異次元緩和導入を受けて短期間で9万円まで値を戻しましたが、やはりその後は下落傾向に転じました。見事なほどに、実は、大局的に景況感と日銀株はリンクしているように見えるのです。よく、株価は景気のバロメーターという指摘があります。これと同様、日銀株もまた、経験則的には立派なバロメーターとなっているのです。
しかも最近は、日銀による株式購入が株価形成を歪めているとの指摘が少なくありません。本来はもっと売り込まれて然るべきなのに、日銀の政策的な買いが下支えになってしまっているのだ、という懸念です。それが本当にそうかどうかは議論もありますが、少なくとも、株価(特に日経平均等の指標)による景気のバロメーター機能に懐疑が産まれてきているのは確かでしょう。バロメーター機能の低下は資本主義経済の危機とも言え、それが景気判断を誤らせ、また株式市場の魅力度をも漸減させかねません。そういった中、そういった特殊要因がない日銀株を、景気のバロメーターとして注目してみたい、というのが今回のコラムの主眼となります。日銀は日銀株を買い支えることはできませんから。経験側が生きていれば、日銀株は景気の有効なバロメーターとして機能する可能性が十分あるのではないか、と考えます。
ちなみに、現在の日銀株はおよそ35,000円程度で、アベノミクス前夜の頃とあまり変わらない水準にまで調整が進んでいます。アベノミクス前夜の日経平均株価は8,000~10,000円、現在は16,000~17,000円といったところです。日銀株とは、大きなギャップがあるのです。さて、みなさんはこれをどう読み解きますでしょうか。
コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)
日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。
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