マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
中国で、農村部から都市部への移住人口と言えば、「農民工」という言葉に代表される、職を求めて移り住む比較的若い世代がイメージされます。
日本の高度成長期の出稼ぎ労働者、あるいは「金の卵」ともてはやされた中学、高校の新卒者に重なります。
しかしながら、近年、求職以外にも様々な理由、動機により、比較的高齢の人々が農村部から都会に移り住む事例が増えており、社会福祉に関する地方政府の負担が増すなど、問題が生じているそうです。
中国政府で医療政策や人口管理政策を担当する国家衛生及び計画生育委員会がこのほど発表した報告書によると、昨年2015年に、農村部から都市部に移動した2億4,700万人のうち、60歳以上の者が1,780万人、7.2%を占めたそうです。
2010年には、移動人口は2億2,100万人、うち60歳以上が930万人で、比率は4.2%に留まっていました。
高齢の移住者が増加したことで、移住者の平均年齢も、2013年の27.9歳から、昨年2015年には29.3歳に上昇しています。
ちなみに、毎年2億人以上が農村部から都市部に移住するということで、農村から人がいなくなるのではないかと心配になるところですが、実際には家族の世話のため、郷里の農地の維持保全のため、あるいは都会での生活になじめない等様々な理由により、農村部に戻る人も相当数存在します。
都市部への人口移動は、一方的な流入ではなく、入れ替わりの形態を取っていると言うことができます。
報告書によると、60歳以上の移住者の理由、動機としては、「子や孫の世話のため」が最多で、続いて「老後の生活のため」、「職を得るため」となっています。
「老後の生活のため」には、子の世話を受ける、あるいは比較的裕福な層では、施設に入居する等福祉サービスを受けることが含まれます。
当然ながら、年齢が高くなるほど、移住先で新たな生活に適応することは難しくなります。中部の河南省から娘を頼って北京に移住した61歳の男性は、駐車場管理の職を得たものの、医療保険に加入することができず、また娘の住まいも極めて狭小で自ら家を借りるお金も無いとして、北京に移って数ヶ月にもかかわらず、河南省に戻ることを考えているそうです。
経済的に余裕のない層では、住宅問題を筆頭に、都市部への移住は難題だらけと言えましょう。
都市部への移住者の年齢層の上昇は、5年ほど前から顕著になったそうで、農民工が都市部に定着し、家族を呼び寄せるケースや、家族全員での移住が増えたことによります。人口移動が新たなステージに入ったと言えます。
この結果として、地方政府には住宅、医療や教育などでの負担が増しており、報告書は、中央政府が、人口流入が続く各都市の地方政府への政策支援を行うよう求めています。
移住者それぞれに異なる事情があり、またそもそも中国では、戸籍制度により、自由な移動が認められていないという制約があるのですが、皆が望む場所で、望み通りの生活を送ることができるよう、各自の努力に加え、適切な政策支援が求められるところです。
農村部から都市部への移住者の動向に、高度成長期の日本が重なって見える話題でした。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト
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