マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。ここにきて、長く燻っていた株式市場は徐々に上放れの様相を呈してきました。筆者も前回のコラムでは市場の灰汁抜けが近いことに触れていたのですが、このタイミングでの上昇はやや予想外でした(前回のコラムでは中間決算出尽くしをそのタイミングを見ていました)。俄かに、市場は動きを速めてきている印象にあります。これから年末に向けては、米国の利上げ観測や北方領土関連といったニュースを契機に、一旦相場が盛り上がってくる状況も十分あり得るのではないか、と思っています。年初よりあまり盛り上がることのなかった今年の株式市場ですが、久々に腕がなる局面が到来するのでは、と期待しています。
さて、今回は「コト消費」をテーマに採り上げたいと思います。一般にコト消費とは、使用価値を重視した消費行動と理解されています。通常の消費は何か「モノ」の所有が重視されるのですが、コト消費では趣味や旅行などといった特別な時間や体験、サービスを重視するスタイルと言えるでしょう。欲しいモノがたくさんあった高度成長期に対し、バブル崩壊以降はモノへの充足感が高まり、むしろ精神的な充足感を求める傾向が強まったということなのかもしれません。コト消費という言葉自体は既に十数年前から徐々に浸透しており(特に、マーケティングの世界においては既に常識となっています)、株式市場でも何度か注目されたことがあります。ただし、いずれも盛り上がりは一時的なものにとどまったように記憶しています。
そういったコト消費ですが、最近はその高まりがより鮮明になってきています。コト消費の代表とも言えるライブ・エンタテインメントの市場規模は2015年についに5,000億円を突破し、2011年比で約70%も拡大したとの報告もあります。それまでは長年3,000億円台にとどまっていたものが、急拡大を始めているのです。また、旅行に関しても、旅行業者の取扱高は2011年の5.5兆円を底に拡大に転じ、2015年は6.5兆円にまで拡大することとなりました。スポーツ関連についても、プロ野球の観客動員数は2012年の2,137万人を底に、今年は(カープの躍進や二刀流大谷選手の活躍などの影響もあるでしょうが)2,500万人に達しようとしています。政府経済産業省の後押し姿勢も鮮明で、スポーツ関連の市場規模を2012年で約5.5兆円(小売、施設、興行他)と試算したうえで、2020年にはそれを約11兆にまで拡大させるとの見通しを明らかにしています。コト消費は消費の新たな牽引車となってきているのです。
また、これら大きな産業のみならず、TV番組に触発されて日本各地で(教科書には出てこないような)より深堀した史蹟ツアーが企画されるといった草の根レベルの事例も多く報告されています。これらに共通するのは、一体感を持てる時間・空間、向上心や知的好奇心を刺激する体験、ということでしょう。確かに、これらはモノを所有することでは決して満足されない欲求に対応したものであり、今後もその傾向はより明らかになってくる可能性は否めません。実際、筆者自身もそういったコト消費にお金と時間を使うケースは増えており、満足度が高いイベントには、高い値段でもあまり抵抗を感じていないようにも思えます。
さらに、この流れはインバウンド消費にも波及しつつあります。これまでのインバウンド消費は「爆買い」というテーマに代表されるように、モノ消費がその主体でした。しかし、リピーターが増えるにしたがい、むしろ「日本体験」といった方向にも外国人観光客がシフトしている様子が報告されています。これらは日本のソフトが注目されつつあるという点で、非常に興味深い動きと言えるでしょう。2016年に日本を訪れる観光客は2,000万人を突破する勢いです。彼らの消費が少しずつでも「モノからコト」へとシフトするだけで、その影響は相当なものになるのではないか、と想像します。
株式投資を考えるうえでも、このコト消費をテーマとした関連銘柄はイメージしやすいのではないでしょうか。旅行会社やテーマパークはもとより、スポーツ施設やイベント製作といった分野がその対象として挙げられます。さらに、これらは体験がポイントとなるため、大規模なサービスを供給できる企業に限らず、小さな規模でも特色あるサービスの提供を可能とするベンチャー企業などにも投資対象は広がってくるものと予想します。むしろコト消費に求められる多様なニーズには、そういった小回りの利く企業こそが重要な担い手になると考えるべきでしょう。コト消費の拡大が統計的に確認できるようになったのは2012年くらいからでした。言葉はその前からありましたが、現在はようやくその下地が実を結んできたという段階と位置付けます。本格的な拡大局面はまだまだこれから、と期待したいところです。
コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)
日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。
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