マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
今週は本日1日の日銀の金融政策決定会合とオーストラリア準備銀行の金融政策委員会を皮切りに、2日米国FOMC、3日英国MPCと世界の中央銀行による金融政策の発表が予定されています。しかし来週8日の米国の大統領選挙結果を巡り不透明要因が拭えない中にあって、金融政策の変更には踏み切りにくく、今週の一連の各国中銀政策発表はマーケットを大きく動かす材料にはならないと思われます。先週末はクリントン氏のメール問題をFBIが再捜査するとの報道にドル/円相場も急落する局面がありました。足元では大統領選の結果を見極めないことには積極的に取引し難い環境にありますが、大統領選挙イベントを通過すれば、次のマーケットの焦点は「米国の利上げ」となるでしょう。
その意味で注目されたのが先週発表された米7-9月期のGDP速報値。4-6月期が+1.4%だったものがなんと+2.9%に急上昇、大変強い数字となりました。2015年10-12月期から3四半期連続で2%を下回っていた米国GDPが急激に伸びたことに驚きが広がりましたが、思いのほかドル買いは進みませんでした。表向きの数字はポジティブサプライズでも、この数字の中身をよくよく精査すると、この成長は一時的なものに留まる可能性があることが懸念されているのです。
実は、今回7-9月期のGDP成長+2.9%のうち0.83%程度が輸出増となったことが寄与していました。輸出は実に10%も伸びていたのです。しかし、米利上げ思惑からドル高基調となっていた中で、輸出が大きく伸びるとは?! その違和感の裏には「豊作となった穀物」がありました。
大豆生産世界一は米国ですが、第2位のブラジル、第3位のアルゼンチンを「南米産大豆生産」として一括りにすると、米国生産を上回るところまで南米の大豆生産量は増加しています。というのも、米国産大豆は3-4月に作付けし10月に収穫するという年に1度の生産サイクルであるのに対し、南米産は10-12月作付けし3月に収穫するファーストクロップと、1-3月に作付けし8月に収穫するセカンドクロップと2期作での生産が可能です。そして生産された大豆やトウモロコシは、肉食文化が進み、鶏から豚、牛へとより大きな家畜を育てるのに必要な飼料用穀物として中国へと輸出されています。そう、大豆消費量世界一は中国。この中国が、米国産大豆や南米産大豆を購入しているのです。
今年はエルニーニョによる天候リスクが南米の穀倉地帯に多雨や干ばつという形で被害を及ぼしたために、南米産の大豆生産が減産となったことで南米産穀物価格が上昇。対して、そのエルニーニョの影響が懸念された米国穀倉地帯には全く天候リスクが発生することがなく、今年の米国産穀物は史上最高レベルの大豊作。米国産穀物の豊作は今年で4年連続となりますが、この豊作見込みを織り込む形で米国産大豆価格は6月の高値1,163セントから9月下旬には946セントまで20%弱も下落。中国としては天候障害で割高となった南米産大豆を輸入するより、豊作見込みで下落した米国産大豆を輸入する方が割安となったために米国産穀物輸入にシフトしたと推測されます。2000年代に入り中国の経済成長と共に、穀物だけでなく、ゴールドや原油市場でもコモディティ価格に及ぼす中国の存在感が大きくなっていますが、米国GDPにまで大きな存在感を示すようになっているとは驚きです。中国は原油や穀物などを安価な時に大量に購入して備蓄に回しています。備蓄というバッファーがなければ回らないほどの図体の大きさ、ということですが、問題はバッファー分ですので価格が高くなれば買うのを控える、あるいは再び米国産大豆が割高となれば、再び南米産大豆の買い付けに切り替えるのが中国。つまり、7-9月期の米国の輸出の伸びというのは一時的である可能性が高い、ということです。
12月、年内1度の利上げの織り込み度は70%前後まで高まっているので、すでに現在のマーケットにおいて利上げは織り込んでいると思われますが、問題は来年2017年の利上げペース。これを占うのが、今週末の10月分の雇用統計をはじめとした今後の米国経済指標です。発表されるのは来年となりますが、その意味では2016年10-12月期のGDPの数字も大きな注目となることでしょう。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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