第234回 トランプ新大統領誕生でドル高のワケと今後のポイント【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第234回 トランプ新大統領誕生でドル高のワケと今後のポイント【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

ドル/円相場は7月高値107.49円を超え108円台へと上昇してきました。トランプ氏は国内製造業を保護のためドル安政策を進める可能性が高く、12月米利上げが困難となるとの見方が大勢だったために、「トランプ氏勝利は円高ドル安、100円割れ」がコンセンサスでしたが、現実には瞬間101.19円までの円高ドル安を示現したものの、あっという間に切り返して「全面ドル高」が進行しています。なぜ、コンセンサスとは真逆の値動きとなったのでしょうか。

① インフラ投資で財政出動~債券売りで米金利上昇
トランプ氏は向こう10年間に1兆ドル規模のインフラ投資を行うことを最優先課題の1つに掲げており、勝利演説でも「幹線道路、橋、トンネル、空港、学校、病院を再建する」と発言しています。財政出動で国債増発となれば、国債の信認低下につながるとして国債が売られて金利が上昇している、との「悪い金利上昇」を指摘する向きもありますが、一方で、減税や公共事業による経済成長がGDPを押し上げることによる「インフレ期待」の高まりが、金利上昇につながっているとポジティブにとらえる向きもあります。どちらにしても、日本国債の10年債金利は日銀がゼロ近傍に固定することが9月に決定されていますので、米金利上昇は「日米金利差拡大」によるドル高円安を招く結果となっています。また、トランプ氏が勝利すれば、米国の年内利上げが難しくなるとの指摘もありましたが、市場が織り込む12月利上げ確率は80%超まで上昇しており、そうした心配は杞憂に終わったようです。

②本国投資法(HIA2)に現実味
トランプ氏はまた、米企業の海外利益を還流させるための新たな税制を導入することを唱えています。米企業が海外に滞留させたままで課税されていない2兆1,000億ドルの利益を米国に戻す方針。この「本国投資法(HIA)」と呼ばれる税制は2005年の1年間に限定し、本国にドルを戻す際に賭ける税金をそれまでの35%から5.25%に引き下げる措置が取られました。当時、約1兆ドルと見積もられた海外留保利益のうち、およそ3,000億ドルが米国に還流したと見られます。ユーロ/ドル相場は2000年から2008年まで大きなユーロ高ドル安のトレンドを形成したのですが、その中で唯一、このHIAが実施された2005年だけが米ドル高のトレンドとなりました。2005年、ユーロ/ドル相場は1.3580ドルから1.1660ドルまでドル高、ユーロ安に、ポンド/ドル相場では1.915ドルから1.712ドルまでのドル高ポンド安、そしてドル/円相場は102.70円台から121.40円まで20円近くも円安ドル高が進行しています。この年のドル高は、この特別税制HIAが大きく影響したものと考えられますが、トランプ氏はこれを再び導入することを提唱しているのです。2005年と同じように、現在米企業が海外に滞留させたままだとされる2兆1,000億ドルの3割が米国へ還流することとなれば、相当なドル上昇圧力。一部試算では、2,000~4,000億ドル近い米ドル買いが発生するとも指摘されていますので、スケールの大きなドル/円相場の上昇があるかもしれません。

ここからの注意点は、11月30日のOPEC総会。原油価格が再び大きく崩れれば米株市場への悪影響も懸念されます。9月の非公式会合で決定された減産合意ですが、11月のOPEC公式会合では生産国各国に減産量の割り当てが具体的に話し合われることが求められているにもかかわらず、産油国各国の不協和音が報じられています。WTI原油価格は減産合意のサプライズで50ドル台に上昇していたのですが、足元では42ドル台へと下落してきています。米株市場が崩れれば、再び債券市場へと資金が戻り米金利が低下、ドル/円相場も円高圧力にさらされます。OPEC総会が近づいてくると、トランプラリーから原油市況へと焦点がシフトしてきますので、この点には留意しておいてください。ただ、このドル上昇に買い遅れている輸入筋も多い印象です。ドル/円の需給から考えると、それほど大きな円高となることは考えにくい相場へと発展していますので、押し目買いスタンスがいいでしょう(ただし投資の最終判断はご自身で)。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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