マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
中国では、高齢者の生活様式と言えば、子や孫などと同居し、家族の世話を受けることが一般的です。
しかしながら、子の仕事や住宅事情などにより同居が難しくなり、夫婦で、あるいは単身で生活する高齢者が増えています。
また、都市部の比較的裕福な層では、介護施設やケア付マンションなどに入居する人も増えており、高齢者の生活スタイルに変化が生じています。
中国全土に共通する傾向ですが、人口の高齢化が進んでおり、北京市では65歳以上の人口が昨年2015年末に220万人でしたが、2020年末には2倍近い400万人に、また2030年末には500万人以上に増加すると見られています。
市の総人口に占める65歳以上人口の割合も、2015年の10.3%から2020年には20%に、また2030年には30%に急上昇する見込みです。
高齢者それぞれに異なる事情があり、伝統的な大家族同居の形を取ることが難しくなる人が今後増える見込みです。
元大学教授の85歳の女性は、娘が米国におり北京で独り暮らしでしたが、「老後は子の世話に」との伝統的な生活様式を守りたいとして、娘が女性の自宅にカメラを設置し、画像で母の安否を確認する生活を一年ほど続けていました。
しかしながら、「娘が自身のことを気にかけ、カメラを設置したことは理解するが、風呂やトイレにまでカメラという生活は気分的に辛い」として、今春、北京に隣接する河北省のケア付マンションに転居しました。家具付二寝室の住宅で、月額家賃は7,000元(約11万円)です。プールやジムなどの施設に加え、高齢者向けということで、ナースコールボタンなどの設備が整っています。
同マンションには1,600人の退職者が入居しており、運営業者はさらに開発を進め、2018年には入居者が10,000人を超える一大施設とする計画です。
同マンションは、当初外国人や海外から帰国した中国人のための施設として計画されましたが、ビザ取得の問題や諸外国との医療水準の差などから、入居者を集めることが難しいとして、ターゲットを比較的裕福な中国人に切り替えました。
これが当たり、北京市に居住する退職者から応募が殺到し、あっという間に満室となったそうです。
入居者の懐具合が気になるところですが、多くは元公務員や国営企業の役職員等で、中国では恵まれた水準の年金を受給しています。
また、住宅を持つ者も多く、価格の高騰が続く中、手持ちの住宅を売却すれば十分に家賃を賄うことができます。
76歳になる北京大学の元教授は、市内の住宅を売却し、夫婦で北部郊外のケア付マンションに移りました。100㎡の住宅の賃料は月額20,000元(約31万円)です。同教授は、静かな環境のもと、執筆と読書に専念できると述べ、新たな生活に大変満足しています。
「早く住宅を購入した者が勝ち組」という中国社会の縮図がここにも垣間見えます。
施設への入居者の関心は、プライバシーの確保と医療サービスの充実度です。相部屋形態の施設は人気が無く、家賃が高くなっても、マンション形態の施設に入居したいとする人が多くなっています。
また、入居者が利用できる医療施設、サービスは極めて重要です。
北京市中心部の高級マンションは、医院を併設し、入居者に加え、近隣住民も利用可能としています。同マンションは、月額の家賃が10,000元(約15.5万円)からと高額ですが、立地と充実したサービスで、同様の施設に対するモデルになると注目されています。
高齢者の増加で、このような施設に対するニーズも増え、内容、価格等様々な物件、サービスが提供されることになりましょう。生活の質に係るものですので、「安かろう悪かろう」は是非回避して欲しいものと思います。
中国の都市部で見られる高齢者の生活スタイルの変化は、現在の日本とも重なるものです。
一方、地方、特に農村部では、子世代が出稼ぎで不在となり、孫と同居し世話をする、あるいは逆に孫の世話を受ける高齢者も多数存在します。
国内に大きな貧富の差が存在し、いわば、戦後の日本と現在の日本が併存しているというのが中国の現状です。
国民の間の貧富、生活水準、社会福祉などの差は広がる一方です。将来、これが社会を不安定化させることにならないかと心配でなりません。
北京の高齢者の生活スタイルの変化に、現在の中国社会が抱える問題が透けて見えるように思います。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト
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