第89回 「保護主義」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第89回 「保護主義」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。後から振り返ると、2016年は歴史に残るインパクトのある選挙が相次いだ年ということになるのではないでしょうか。6月の英国EU(欧州連合)離脱決定の直接選挙(BREXIT)、そして今月の米国の大統領選挙です。いずれも事前のメディアの予測を覆す番狂わせとなりました。このコラムでも4月に予想以上に強いトランプ旋風を取り上げたのですが、ここまでの支持拡大は予想外でした。そのためか、大統領選挙直後は先行不透明感が市場を席巻しましたが、氏が選挙戦後は現実的かつ穏当な振る舞いに転じたことで現在はむしろ期待が高まる格好となっています。ひとまず金融市場では、米国内のインフラ整備関連、規制緩和対象とされる金融関連が注目され、また大型減税実施に伴う国債増発観測から円安進行という反応を見せました。ただし、氏に行政経験はなく、その手腕は(ビジネスマンとしての実績は十分としても)未知数と云わざるを得ません。短期的な連想相場はさておき、現実には氏の手腕を見極めながらの手探り相場になると予想しています。筆者としては、4月にコラムを書いておいたことに加え、前回、前々回のコラムで筆者が予想した通りの相場展開となってちょっとホッとしているところです(笑)。

さて、今回はその次期大統領選に絡んでのテーマとなります。「保護主義」です。ここでいう保護主義とは、「自由貿易に制約を加え、自国の産業を育成する貿易政策」と定義しましょう。具体的には、輸入品の数量規制や効率の関税設定などです。発展途上国では産業育成のために保護主義を採るケースも少なくありませんが、先進国においては自由貿易をむしろ基準とし、保護貿易下にある産業をどんどん減少させているというのが実態です。これは、自由貿易により最適地生産が可能となることにより、(ある産業の縮小・淘汰といった痛みもありますが)経済的メリットはその方が大きいとされているためです。しかし、トランプ次期大統領は、その選挙戦においてNAFTA(北米自由貿易協定)やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に否定的なスタンスを示し、高率の関税を中国品などに課す意向を明らかにしてきました。自由貿易の結果、むしろ米国民は雇用を奪われるなどで不利益を被っているとの主張です。果たして、氏が選挙戦で繰り広げたこの主張をどこまで実行に移すのか(移すことができるのか)はまだまだ不透明ですが、少なくとも保護主義的なスタンスへの米国民の支持が少なくないことは確かなようです。自由主義経済を標榜してきた米国においては、決して看過しえない現象と捉えることができるでしょう。

当然ですが、仮に保護主義的な動きが世界中に広がることとなれば、世界経済への相当なダメージが予想されます。なぜなら、各国は全ての商品・サービスを自国内で賄うことになる一方、他国への輸出も難しくなり、世界的に供給能力過剰と能力不足が同時に発生することになるためです。自由貿易下では交易によってこの能力差を埋めるのですが、保護主義下では各国がそれぞれストック調整(投資)を余儀なくされることになります。時間とお金は余分にかかることになり、効率性は著しく失われていく可能性があります。特に、国土や資源、人口規模などに限界があれば、その国の産業はそれ以上の発展が望めない、ということにもなりかねません。人口減が予測される国に立地し、これまで自由貿易経済を活用してきた日本企業にとって、強烈な逆風となることは想像に難くありません。また、競争の緩和は技術や工夫の停滞懸念にも繋がります。冷静に考えれば、(先進国において)保護主義的な流れが加速する合理性は希薄なのです。にもかかわらず、BREIXTと同様、これまでのグローバリズムへの流れに対して抵抗感を抱く層が着実に増えているというのが現実のようなのです。この分析などは政治学者や社会学者の解説を待ちたいところです。

では、保護主義が広がるとした場合、どういった株式の投資戦略が有効なのでしょうか。もちろん、第一義的には悪材料であることは間違いありません。しかし、海外に既に生産拠点・サービス拠点を有する企業群であれば、その悪材料を緩和することができるだけでなく、場合によっては当該国の国内企業としてメリットを享受できるビジネスチャンスを得るということでもあるはずです。注目点としては、地産地消を完結できる独立型海外拠点をどれだけ保有しているかどうか、あるいはそういった拠点を今後どれだけ準備できるか(新規建設、もしくは既存企業の買収)、ということになります。これは、まさに多国籍企業ということに他なりません。保護主義の世界においては、皮肉にも真の意味でグローバル企業こそがビジネス機会を享受できる、ということになるのかもしれません。


コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

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