第235回 低金利時代の終焉か~トランプ氏がもたらしたゲームチェンジ【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第235回 低金利時代の終焉か~トランプ氏がもたらしたゲームチェンジ【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

米国の金利が勢いよく上昇を始めました。18日金曜には米国の10年債利回りが一時2.36%と約1年ぶりの高水準まで上昇。大統領選開票前の8日終値1.85%から比較すると0.50%高い水準です。一方で日本国債の長期国債利回りは9月の日銀会合で発表された「イールドカーブ・コントロール」政策により「ゼロ近傍」に固定されていますので、米国債の利回り上昇はストレートに日米金利差拡大につながり、これが足元のドル/円相場を勢いよく跳ね上げる材料となっています。

先進国の経済成長が停滞する中、各国の中央銀行は政策金利を引き下げる緩和政策を実施してきましたが、なかなか思うように経済成長が見られないことから超低金利時代は長期化すると考えられてきました。しかし米金利上昇に連れてドイツ国債など欧州各国の国債、英国、オーストラリアやニュージーランドなどなど各国の国債利回りも、つれ高となっています。トランプ大統領誕生で世界の低金利時代は終焉したのでしょうか。

世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター創業者のレイ・ダリオ氏が、大統領選後の15日に「債券相場は過去30年のピークが過ぎた可能性が著しく高いと考えている。インフレ、そしてインフレと比較した債券利回りの両方について、長期サイクルの最低水準に恐らく達した」とコメントしています。つまり、長期に続いた低金利時代が終焉するということを予想しているのです。

また、かつてジョージ・ソロス氏のもとで働き、ソロス氏とともに1992年のポンド危機におけるポンド空売りを行ったスタンレー・ドラッケンミラー氏はこれまでゴールドを大量に買っていた投資家として知られていましたが、今回のアメリカ大統領選挙を受けてその方針を全面的に転換しています。CNNのインタビューに「選挙の夜に金をすべて売却した。ここ数年金を持ち続けたすべての理由が、わたしにとってはもう過去のものになりつつある」と発言しています。代わりに「経済成長に大きく賭けている。世界中で債券を空売りしている。わたしはバブルを空売りしている。ドイツ国債を、イギリス国債を、イタリア国債を、アメリカ国債を空売りしている」と発言、彼もまた、国債バブルは終焉したと予想しています。

トランプ新大統領誕生で、一体何が変わったというのでしょうか。
前回のコラム「トランプ新大統領誕生でドル高のワケと今後のポイント」で、トランプ氏が選挙戦中に提言してきた「インフラ投資による財政出動」と「本国投資法(HIA2)に現実味」が金利上昇をもたらす可能性について書きましたが、今回はこれらに「規制緩和による経済成長期待」を加えたいと思います。

トランプ氏は選挙前、「アメリカ政府による規制の70%は不要で、ビジネスの成長を妨げている」と発言しています。この規制の廃止が投資からのもう一つの大きなテーマとなってきます。例えば、「ドット・フランク法」。同案はリーマン・ショック後に定められ、重要な金融機関への規制を強化、金融機関のリスク管理やコンプライアンスを厳格化したものです。今回の大統領選でクリントン候補が勝利すれば、民主党は同法を強化する方針でした。規制強化がされない、というだけでも金融市場にはプラス要因ですが、トランプ氏は同法を撤廃、もしくは大幅修正することを掲げてきました。その代わりに経済成長と雇用創出を促す新しい政策と入れ替えることに取り組むことを提言してきたのです。共和党も7月18日に公表された政策綱領(選挙公約)にて過剰規制が経済の低成長の一因となっているとドッド・フランク法に否定的見解を示しています。この法案を撤廃するということは、要するに銀行融資の増加を促す狙いがあるということ。規制が理由で銀行は「融資ができない」とトランプ氏は発言しています。ただし、実際には、融資が手控えられていることで景気回復が阻害されているかどうかは、定かではなく、借り手がいない(需要不足)が原因だとの指摘もあるため、本当に効果があるかどうかは見方が分かれるところですが、、、。

前出のドラッケン・ミラー氏は、「アメリカ経済はあまりに過剰な規制を受けている。その撤廃は効果がある」として「金利は世界中でもっと上昇することになるだろう」と述べています。大統領選同日に行われた連邦議会選挙では、上下院ともに、共和党が過半数を占めたことで、ねじれは解消されました。政策や法案は通りやすく、トランプ新大統領が大胆な規制緩和を実現できる可能性は大きいのです。日銀が長期金利をゼロ近傍に固定する政策を取り続ければ、日米金利差は拡大する一方です。ドル/円相場の上昇は始まったばかりなのかもしれません。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

TwitterAccount
@hirokoFR

マネックスからのご留意事項

「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

マネックスメール登録・解除

コラム一覧