マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
ドル/円相場は11月3日のボトム1ドル102.50円台から、11月25日113.89円まで上昇。3週間で11%上昇となっています。このペースでのドル/円上昇は1995年以来。1995年といえば、円高に対処するため米サマーズ財務長官と、当時国際金融局長だった榊原英資氏がブルドーザー介入と言われた大量の米ドル買いの協調介入を行った年。今回のドル/円上昇はこの為替介入時に匹敵する勢いであるとも言えるわけですから、ここからはさすがに注意が必要でしょう。
為替相場の大きなトレンドを形成するのは「需給」です。日本勢の対外証券投資や対外債券投資、そして海外からの日本への投資の増減も重要です。また貿易収支は為替の需給には大きな影響を及ぼすほか、M&Aによる外貨調達の有無なども為替を大きく動かす材料です。今回のドル/円上昇局面では日本の輸入業者らのドル買いが全く追いついていないことが指摘されているほか、M&Aによる資金調達もこなされていないようですので、年末、あるいは来年3月期末に向けてはドル/円が下がってくる局面があれば、買い遅れていた実需勢がすかさず買ってくるだろうと考えられ、為替の需給面からみれば、大きなトレンドはドル高円安に転換したと思われます。
ただし、短期的な相場のボラティリティを形成するのは、金利差などの変化を見て仕掛けてくるヘッジファンド勢らでもあります。日本の実需勢が買い遅れて手も足も出ないことが指摘されている中で、大きな上昇相場を演じた背景にはヘッジファンドら短期筋の存在も大きかったと思われます。つまり、彼らが手仕舞いに動けばスピード調整と言われるドル/円の下落も覚悟しなくてはなりません。大局ではドル高円安の大きなトレンドが発生しているとはいえ、短期的なドル/円の急落には注意が必要です。
彼らヘッジファンド勢がドル/円相場をここまで買い上げた背景には「日米金利差拡大」があります。米長期金利(10年債利回り)は先週末に2.35%まで上昇(一時2.4%乗せ)、選挙直前の1.82%から0.5%も上昇しています。ヘッジファンド勢は急騰する米国債利回りと日米金利差を材料に、ドル/円ショートをすぐさま買戻してロングに転じたものと思われます。
注意しなくてはならないのが、金利差拡大によるドル/円相場の感応度。JPモルガン・チェース銀行の棚瀬順哉氏の試算によりますと、日米長期金利差0.10%拡大に対するドル/円相場の感応度は、選挙前の1.56円から選挙後2.97円に増大しています。同じ0.1%の金利拡大で、なぜドル/円は敏感に2倍近くも上昇する相場となっているのでしょうか。
考えられるのが、日銀の「指値オペ」です。日銀が適当と判断するイールドカーブから離れた水準に金利が動いたときに、日銀が指定する利回りで国債を無制限に買う措置のことで、9月の日銀の金融政策決定会合にて「イールドカーブ・コントロール」政策を決めた際に導入されました。これが11月17日に実施されたのです。この時、ウォール・ストリート・ジャーナルのヘッドラインでは、「Buy Unlimited JGBs at Fixed Rates」と報道されました。「バイ・アンリミテッド」つまり日本国債10年債の「無制限の買い」という意味です。
トランプラリーで米金利が勢いよく上昇すれば他国の金利もそれに連れて上昇していきます。日本国債も同様、トランプラリー後上昇に転じて、マイナス圏からプラスに浮上。9月に決定された「イールドカーブ・コントロール」政策というのは、日本国債10年物の利回りを「ゼロ近傍」に固定する、というもの。マイナス圏にある場合は、長期債を買う量を減らして、ゼロ近傍に近づけるものだとして一部金融関係者らには「テーパリングではないか」と指摘された政策でしたが、トランプラリーでは米金利が上昇し、日本国債金利も上昇したため、日銀は「無制限で国債を買い入れる」ことで、日本国債の金利上昇を押さえつけるという「指値オペ」を実施したのです。無制限の国債購入、これを一部の金融関係者は「日銀による追加緩和に等しい」と指摘しています。
つまり、米金利上昇によるドル買い圧力だけではなく、日銀の指値オペによる追加緩和的効果による円売り圧力がダブルでドル/円上昇につながっていた、ということです。これが日米金利差拡大による感応度を高めた背景でしょう。
ということは、逆に米金利が下落に転じればどうなるでしょうか。金利差縮小ですから、ドル/円相場は売られます。米金利下落でドル売りが出るだけではありません。一緒に日本国債利回りも下落圧力にさらされます。ゼロ近傍より急激に長期債利回りが下落すれば、日銀は長期債を買う量を減らして金利をコントロールします。これは、逆に円高要因となりますね。つまり、米金利が下落すれば、ダブルでドル/円下落の圧力となりかねないということになります。金利への感応度が高まっているということは、ドル/円相場のボラティリティも高まっているということです。需給から考えられる長期的なトレンドはドル高円安だとみていますが、短期的には米金利に大きく振り回されるリスクが高く、思わぬ急落もあるかもしれません。米金利動向には注意を払っておきたい局面です。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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