第90回 「アディティブ・マニュファクチャリング」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第90回 「アディティブ・マニュファクチャリング」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場はまさに「勢いが止まらない」状況となってきました。今年一年の鬱憤を晴らすかのような展開といえ、かなりシビれる相場といった感触でしょうか。どこかで少なくとも日柄調整は入るのでしょうが、現在筆者はそのタイミングを見誤ることのないよう細心の注意を払っているところです。今回の相場は為替の変動も大きな要因となっているため、難しい判断が迫られると感じています。一方、今月から新年にかけては、イタリア、オーストリアでの選挙、プーチン露大統領の来日、利上げ観測の高まる米FOMC(連邦公開市場委員会)、トランプ新大統領の就任、といった大きなイベントも目白押しとなっています。どこまで株式市場はその結果を織り込んでいるのか、などは慎重に見極める必要があるでしょう。まだしばらくは相場から目が離せません。

さて、今回取り上げるテーマは「アディティブ・マニュファクチャリング(Additive Manufacturing)」です。日本語では積層造形と訳されることもあります。聞き慣れない言葉かもしれませんが、モノを作り出す手法の一つとご理解ください。そもそもモノを作る手法には、素材から削り出すか、素材を重ね合わせるか、の2種類に大別できます。現実にはこの組み合わせとなるケースがほとんどなのですが、このアディティブ・マニュファクチャリングは、素材を足しながら造形する手法の一つなのです。この手法は、3Dプリンターの出現により一躍注目を浴びました。既にご存じの方の多いと思いますが、3Dプリンターは、3Dデータの設計図に基づいて、その断面形状を積層して立体物を作成します(通常のプリンターではインクに相当する)。積層する素材には樹脂などが用いられ、階層的に素材を足しながら、熱や紫外線、接着剤などで徐々に硬化させて造形するものです。この3Dプリンターの特徴は、(断面形状さえわかれば)複雑な形状のモノでも同一素材で一体的かつ大量の作成が可能となるうえ、歩留り(投入素材量に対する製品量の割合)も極めて高い水準が期待される点です。従来手法では、複雑な形状のモノを削り出しによって作成することには限界がありますし、重ね合わせでは素材の一体性に弱点を抱えることにもなります。当然、削り出しなどでは無駄になる素材(材料)も多く発生してしまうため、コストもかかってしまいます。モノづくりの世界において、3Dプリンターはかなり画期的な位置づけにあり、これを革新的とまで表現する方もおられるのも、こういった特徴が背景にあるためなのです。そのため、株式市場でも3Dプリンターはこれまで何度かテーマとして物色されてきたことも記憶に新しいところです。

しかし、確かに内容が革新的ではあっても、まだまだ普及には時間を要しており、話題先行となっていることも事実でしょう。これは、使用できる素材が樹脂中心であり、そのために用途にあまり広がりが持てなかったことが原因の一つと筆者は考えています。樹脂では過酷な使用条件下での使用、例えば工業部品などでの使用に限界が生じてしまうため、です。それが昨年以降、例えば粉末金属などといった素材も3Dプリンターで使用されるケースが増えてきたようなのです(この背景には特許などがありますが、ここでは割愛します)。この流れが加速してくると、素材の選択肢が増加するのに伴って、3Dプリンターで作成されたモノの用途が一気に広がってくる可能性があります。工業製品などにも活用できることとなれば、産業用部品への採用に繋がるケースも出てくるでしょう。粉末金属を焼結して工業部品とする技術(粉末冶金)は既に一般に確立されているため、インクに相当する部分に粉末金属を用いた3Dプリンター製品も同様に利用される機会は増えていくものと予想されます。実際には、その合金技術や製品強度・耐久性の検証が普及には必要なのでしょうが、それらの解消・改善は時間の問題ではないか、と想像しています。

こうなった時に注目すべきは、素材などの消耗品ビジネスや製品そのもののコスト改善効果でしょう。これまでは3Dプリンターそのものが相場の注目点であったのですが、これに伴って、株式の投資対象にはかなり多くの企業がリストアップされてくることになります。一般に、相場のテーマが大きく盛り上がるためには、そのテーマそのものの広がりや投資対象の拡大が不可欠です。「プリンター」というモノの発想から「アディティブ・マニュファクチャリング」という手法へと視点を移すことで、盛り上がりに向けての必要条件が整ってくるのではないでしょうか。


コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

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