第191回 中国の民泊事情 【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第191回 中国の民泊事情 【北京駐在員事務所から】

天安門広場や繁華街の王府井、さらに万里の長城など北京の有名観光地では、地方からと思われる団体旅行客の姿が目立ちます。
聞こえてくる会話が、標準語とは明らかに違うこともしばしばで、中国の広さを実感します。
中国では貧富の差が大きく、地方には「海外旅行など夢のまた夢、生きているうちに一度は天安門を拝んでみたい」という人もまだ多くいます。王府井などには地方からの旅行客の需要を当て込んだ土産物店が軒を連ねており、旅行者は大量の品を購入して帰郷後親族や友人に配り、旅行の自慢話をすることになります。

一方、ある程度の旅行の経験を持つ人たちの間では、SNSなどでの口コミを頼りに、個人あるいは少人数のグループで旅をすることが好まれており、大型連休などの時期を除いて、交通手段、宿泊ともに出発直前に手配する傾向が強まっているそうです。

中国の大手旅行情報サイト「蟻蜂巣」の運営会社が、このほど中国人個人旅行者の宿泊予約の傾向等について調査を行い、結果を公表しました。
中国語で「民宿」と呼ばれる、地域の生活様式を体験できる小規模宿泊施設やホームステイの人気が急上昇中だそうです。
別の調査によると、中国国内にはそのような宿泊施設が40,000軒ほどあり、市場規模(年間の売上高推計)は200億元(約3,200億円)に達すると見られています。
一例として、南部雲南省の麗江や大理(少数民族文化や古い街並みで有名な観光地です)には、このような宿泊施設が数多くあり、一泊朝食付で料金は318元(約5,100円)から801元(約12,800円)となっています。観光地ですのでやむを得ないところかとは思いますが、中国人が支払う宿代としてはかなりの高値に思われます。
蟻蜂巣の調査責任者は、「宿泊者は地元の人達や他の宿泊者と交流することで、特別な経験を得ることができる」と民宿の人気の理由を分析しています。

南部福建省のアモイ(台湾の対岸に位置します)に住む31歳の女性は、一般のホテルは総じて立地に優れ、またサービスも標準化されており間違いが無いと評価しつつも、「驚きもない」とし、ホームステイを含む民宿を利用しています。
また、最南部の海南省に住む28歳の女性も、「民宿は建物のデザインや主人の人柄に触れることができ、旅行を特別なものにしてくれる」と述べ、国内に加え、イタリアのミラノやオーストラリアのメルボルンでも、ホームステイを体験したそうです。

今後ますます有望と思われる民宿ですが、観光地では需要の季節変動が大きく、また特徴ある施設になるほど維持管理のコストもかさむなど、問題も山積しています。
利用者の中には、施設の情報が十分でないことから、安全性について懸念する声もあり、蟻蜂巣の調査責任者は、SNS上の口コミなどを十分確認することを薦めています。

日本では、法整備が不十分なまま、実態先行の形で住宅やマンションの空室を提供する形の「民泊」が広がりを見せており、様々な問題も発生していますが、中国の「民宿」は、以前から日本にもある民宿と、オーナー常駐型の民泊を包含したものと言えます。
観光地の民宿などでは、外国語対応など負担の増加要因はありますものの、中国人を含む外国人旅行者が、従来型の観光、食事とショッピングからより「体験型」の旅行を志向していると言われる中、各地方独自の生活体験を得られる施設として、今後注目されるのではないでしょうか?
特に、中国ではSNSで高く評価されることで、新たな需要が喚起され、人気の施設となることが頻繁です。外国人旅行者の呼び込みの一手段として、民宿あるいは民泊での受入強化は、有力な選択肢となりそうに思えます。

中国の個人旅行者の動向から、日本へのヒントも見えてくるように思いました。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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