マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
成長を続ける中国経済ですが、都市部を除くとまだまだ公共投資への依存度が高く、中でも高速鉄道網の整備は政府が力を入れている分野です。
観光やビジネスでの人の往来を活発化させ、あわせて高速鉄道の開通により、既存の路線での貨物輸送の容量増を図ることが目的となっています。
日本では、「4時間の壁」などと言われるように、長距離の移動では航空便が競争優位に立ちつつありますが、中国では鉄道の運賃が低位に設定されているため、長距離、長時間の路線にも高い需要があり、航空便との棲み分けが図られています。
東部沿岸部や中部の都市を南北に結ぶ路線はほぼ完成し、近年では沿岸部から内陸部への東西方向の路線の整備が中心となっています。
2014年の末には、中国政府が推し進める「西部大開発」を象徴する蘭州(甘粛省)‐ウルムチ(新疆ウイグル自治区)間の路線が開業し、シルクロードに高速鉄道が走る時代となりました。
そして、いよいよ「世界の屋根」とも言われるチベットでも、2025年に高速鉄道が開業する予定です。
四川省の成都と、チベット自治区のラサを結ぶ1,838㎞(新函館北斗‐小倉間に相当します)の路線で、最高速度は200㎞/時、所要時間は13時間です。
現在、成都‐ラサ間は鉄道ですと二泊三日の長旅となりますが、大幅な時間短縮が実現します。
成都からは2014年に、またラサからは2015年に、それぞれ建設が始まっており、中央部の工事が2018年に始まる計画です。
総事業費は2,160億元(約3.6兆円)です。北陸新幹線の敦賀から京都、大阪への延伸路線が、150㎞程度の距離で2兆円を超える事業費ですので、ずいぶん安いように思えます。土地の買収が不要なことが大きな違いとなっています。
沿線は急峻な山岳地帯のため、全路線の74%がトンネルあるいは橋梁になります。
専門家は、地震や地滑り、雪崩の多発地帯で条件が悪く、これを克服する技術力が求められると指摘しています。
一方、事業主体となる中国鉄路総公司の技術者は、四川省の西部やチベット自治区の東部には息をのむような景観と少数民族文化があり、観光での魅力が大きいと述べています。
成都の旅行代理店に勤める男性も、この路線の開通で観光客が一挙に増え、発展が遅れている沿線地域が経済的に潤うことに期待を示しています。
日本では、新幹線の建設の都度、採算性や並行在来線の扱いなどが議論となります。
土地の所有制度など、前提条件の違いが大きいとは言え、政府主導でどんどん新路線が開業する中国の状況が羨ましく思える時もあります。
ちなみに、中国では高速鉄道が開業しても、より運賃の安い普通列車が残り、学生や労働者の貴重な足となっています。
北京からは、各地への高速鉄道に加え長距離寝台列車が、また北朝鮮の平壌やロシアのモスクワに向かう国際列車も出ており、鉄道ファンには楽しみが満載です。
ブルートレインや急行列車が消滅した日本とは対照的な光景が残っています。
中国の高速鉄道開発が、日本の高度成長期からバブル期の勢いに重なって見える話題でした。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト
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