マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。トランプ大統領就任と前後して、株式市場は調整色を増してきました。それでも、これまでの急ピッチの上げを考えれば腰が強いという言い方もできるように思います。ただ、この状態が長引くようになれば先高感が徐々に薄れ、相場の基調そのものが崩れてしまうリスクもまた感じざるを得ません。英のEU離脱や米の米国第一主義といった新方針はまだまだその落としどころが見える段階にはありませんが、しばらくは神経質な相場展開とならざるを得ないのも実状でしょう。新年早々ですが、2017年前半の相場の踏ん張り所に差しかかっているように、筆者は考えています。
さて、今回は「残業規制」をテーマに取り上げてみたいと思います。まだ新聞報道の段階ではありますが、政府は残業に上限規制を設定する方向で検討に入っているようです。既に、違法な長時間残業を行った企業名は公表されることとなっており、企業側としてもこれらへの真摯な対応が迫られる状況となっています。この規制の背景には、若い社員が過労死・過労自殺するといった痛ましい事件があったことは記憶に新しいところです。亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、このような悲劇が繰り返されることのない仕組みの設定を喫緊の課題として捉えなければなりません。政府の動きもそういった危機感を受けてのものと推察しています。
ただし、こういった残業規制が根本的な解決策になるとは筆者は考えません。規制はあくまで現象面での抑制にしかならず、長時間労働を生む働き方そのものにはメスが入っていないためです。重要なのは、こういった規制を起点に、企業側が働き方を如何に変えていくか、と考えます。かつてブラック企業とさえ言われた外食チェーンが従業員を重視する姿勢に転換した結果、業績はむしろ大きく改善した例もあります。労働時間を減らさなければならない(あるいは人件費を増加させなければならない)という圧力に対して、各企業は創意工夫を施して新しい仕組みを模索していくことになるでしょう。従業員のみならず経営者も、単なる根性論や「俺たちの若い頃は・・・」といった視点とは一線を画し、これまでとは非連続的な意識改革が求められることになるはずです。当然、これらは企業価値を左右する重要な要因であるため、延いては株価へも大きく影響してくることになります。成果が確認できるまでに若干の時間はかかるでしょうが、これを乗り越えることができるかできないか、は企業にとって非常に大きな分水嶺になるものと想像します。
そもそも、一人当たりの労働時間の短縮を図るには、人員を増やすか、仕事を減らすか、効率を上げるか、しか方法はありません。無駄な仕事の排除や必要な人員の増員は当然なのですが、効率改善には外注化シフトやロボット、AIの活用などが有効かもしれません。実際に、いくつかのバックスタッフ業務についてはそれに特化した専門企業が既に急速に成長しています。残業規制を契機に、こういった流れは一層加速するのではないか、と考えます。また、特に近年急速に進化してきたAIは様々なデスクワークを担える水準にも近いように見えます。AIの躍進は人間の仕事を駆逐するとの懸念もありますが、換言すると、労働時間短縮に有効であるとポジティブに捉えることも可能です。そう遠くない未来、AIをそういった業務に導入する企業が出て来るのではないか、と考えます。
あるいは、裁量労働制や残業などの規制対象とならないホワイトカラーエグゼンプション(労働時間規制適用免除制度)の積極的な導入も考えられます。現在は導入に年収や職種などへの制限が課せられていますが、労働を計る単位が時間から成果へとシフトする時代の流れを考えれば、こういった働き方も増加していくのではないでしょうか。これらは働き方を自分で決められるという裁量権を労働者自身が持てることにも繋がり、「働かせられている」感の緩和にも繋がると考えます。ベンチャー企業や外資系企業も長時間労働で名を馳せますが、それがすぐさまブラックとならないのは、「働かせられている」という強制感が希薄で「自らの意志で働いている」ケースが多いことに起因しています。働き方改革が様々に語られる中、時間よりも成果・労働内容を重視する方向性は加速して行くものと予想します。
長時間の残業が不健全であることに異論はないでしょうが、残業代が家計の重要な下支え要因となっていることもまた紛れもない事実です。紋切型の残業規制は、下手をすると従業員の家計を大きく圧迫させてしまい、かつ業務が回らなくなってしまうリスクと隣合わせでもあります。そういった事態に企業はどう対応していくか、またどういった新しい発想を導入していくか、が問われることになります。そして、大きく仕組みが変わる局面となれば、そこには予想を越えた新しいビジネスが生まれてくることにも繋がると期待しています。
コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)
日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。
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