マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
明日2月1日水曜日午前に都内で開催される、クリストファー・シムズ教授の講演が一部金融関係者の間で話題です。2011年にノーベル経済学賞を受賞したシムズ教授は、物価水準を決めるのは金融政策だけではなく、財政政策も必要であるという「物価水準の財政理論(FTPL)」を提唱しています。安倍内閣のブレーンである浜田内閣官房参与がシムズ教授を招聘、明日の講演でもパネルディスカッションで討論される予定となっていますが、シムズ教授が安倍首相にもお会いになるのでは?と注目されているのです。
2016年、ジョセフ・スティグリッツ教授やポール・クルーグマン教授が来日、安倍首相と会談しましたが、この後2016年8月、総額28兆円超に及ぶ経済対策が打ち出され消費税10%への引き上げの延期が決められたことが記憶に新しいですね。シムズ教授の来日は、新たな政策決定事項に係る何らかの伏線である可能性があるのでは?!と考える金融関係者がいても不思議はないでしょう。
金利がゼロ近辺まで下がると量的緩和は効かなくなってくるとの指摘がありますが、現実にゼロ金利政策下でのインフレターゲット達成は困難であり、日銀は非伝統的金融政策を打ち出し、国債やETFを購入しています。こうした異次元の量的緩和政策にも限界論が囁かれ始めた2016年1月、日銀はマイナス金利政策を導入したものの、逆に円高進行となり、金融株下落が日本株市場全般のセンチメントを悪化させてしまいました。
マイナス金利政策を導入したことで、マイナス金利を深堀り(マイナス幅を拡大)するという新たな緩和カードを切ったかに見えましたが、マーケットはマイナス金利政策で金融機関の収益が悪化しバランスシートを損ねてしまうとして、円高株安へと反応。資産上昇圧力も期待できなかったばかりか、預金者らはその言葉におびえ、銀行からキャッシュを引き出してタンスの奥深くにしまい込むという、思わぬ副作用も出てしまったのです。こうした経験則から浜田内閣官房参与は「デフレはマネタリー(貨幣的)な現象」との考えを改め、インフレが起こらないのは金融政策を「財政政策とセットで行っていないからだ」と述べていますが、要するに財政政策に踏み込むということは、増税はもってのほか、むしろ減税が必要であり財政の拡大が必要であるということになります。
政府債務が拡大すると、一般的に政府は財政赤字を減らそうと増税や緊縮に走りますが、これは金利低下を招く一因でもあります。将来、政府債務が減るとなると金利が下がりますね。(トランプ大統領は財政拡大路線であるため、金利が上昇し出したのです)金利が下がれば、資金需要が減ってデフレ的になっていきます。
ということで、金融政策のみでは物価を上昇させることはできないという理論が、シムズ教授の唱える「物価水準の財政理論(FTPL)」、金融関係者は「シムズ理論」と呼んでいます。週明け30日にはロイターの取材に応じ、アベノミクスは「2014年の消費増税がなければ、もっとうまくいっていた」と述べ、20年間続くデフレから脱却するためには「財政政策を物価目標の達成と連関付けるべきだ」とし、財政・金融政策の一体運営の重要性に言及していました。
インフレターゲット達成のために、日本もトランプ政権型の財政拡大に踏み切る可能性が?!30日時点で安倍首相と会う予定はないとしていますが、もし、安倍首相にお会いになることがあり、それがメディアで報じられることがあれば、ドル円相場は大きく動くかもしれません。足元ではトランプ大統領の保護主義に対する反発と警戒が強まっており、ドル安基調となってきていますが、シムズ教授の発言には注目しておきたい局面です。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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