第199回 一人っ子政策廃止の効果は? 【北京駐在員事務所から】

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第199回 一人っ子政策廃止の効果は? 【北京駐在員事務所から】

中国では、昨年より「一人っ子政策」が廃止され、全ての夫婦に第二子を持つことが認められました。
急速に進む人口高齢化と労働力不足を受けての政策変更です。
「出生数の大幅な増加が期待できる」との声と、「都市部では住宅事情や教育費の負担が重く、出生数の大幅増は期待できない」との見方が交錯していましたが、このほど、政府で同政策を担当する国家衛生及び計画生育委員会が、昨年2016年の出生数等を公表しました。

出生数は1,786万人となり、前年2015年の1,655万人から131万人、7.9%増加しました。
全体に占める第二子の割合も、2013年頃まで毎年30%程度であったところ、昨年は45%にまで上昇しました。意外にも思えますが、東部沿岸部の大都市では、第二子の割合が50%を超えたところもあったそうです。

計画生育委員会の幹部は、一人っ子政策の廃止は効果を挙げていると述べ、専門家の推定として、今後2020年まで、出生数は1,700万人から2,000万人の水準で推移すると期待を示しています。
別の幹部も、政策変更により、今後2年以内に新たなベビーブームがやってくると述べ、同委員会では妊娠、出産に関連する医療等の業務を行う人員を14万人増員し、出生数の増加に備える方針であるとしています。

天津市の有力大学で、周恩来元首相(1972年に田中角栄元首相とともに日中国交樹立の際の共同声明への調印を行いました)の出身校でもある南開大学の教授は、一人っ子政策の廃止が、中国の安定的な成長をもたらすと期待を述べています。
計画生育委員会の予測では、今後誕生する子供たちが成長する2050年には、労働人口が3,000万人程度増加するほか、人口高齢化の進行を抑制する効果も期待できるとされています。

良いことずくめのように見えますが、あくまで国家経済というマクロの視点からの話です。
出生数が8%近くも増加したということで、子供たちは将来、より熾烈な受験競争と就職難に直面する可能性があるほか、既に社会問題となっている「男性の結婚難」もより深刻になることが予想されます。
改めて「子供を持つ」という、本来極めて個人的な事柄に、政府の政策が関与することの問題の重大さを感じます。若い夫婦や、一人っ子政策により第二子を持つ機会を逃した夫婦など、多くの人の人生に影響を与えたことが容易に想像されます。

日本では、昨年の出生数が100万人を下回ったとされ、少子化はもはや止められないとの悲観的な見方も強まっています。
中国では、昨年についてはとりあえず政策変更の効果が確認されましたが、適齢期の男女の「結婚難」の状況は変わっておらず、また将来、経済発展で生計費が上昇することで、子供を持つことへの意欲が削がれることも懸念されます。
日本、中国ともに、中長期的に人口高齢化、労働人口の減少と年金制度の持続性の問題に直面することが避けられないように思われます。

中国では明日2日(木)まで春節(旧正月)の連休ですが、帰省の機会に、昨年中に生まれた子が祖父母や親族への「お披露目」となった家庭も多いことと思います。
一方、独身者の間では、両親、祖父母や親族から結婚へのプレッシャーを受けるということで、春節の帰省を避ける動きも広がっているそうです。日本でも聞かれる話ですが、事情は共通というところでしょうか。
それぞれの夫婦、家族が望む形で子供を持つことができ、結果として経済が持続的に発展する形となるよう、願いたいと思います。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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