第94回 「統合型リゾート(Integrated Resort:IR)」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第94回 「統合型リゾート(Integrated Resort:IR)」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場は様々な意味で完全にトランプ相場となっているように思います。氏も大統領就任後は過激発言が鎮静化するはずとの期待も虚しく、氏は極端な発言や政策を矢継ぎ早に実施してきました。その真意を巡って市場も翻弄されているというのが現状でしょう。ただし、発言に一喜一憂する状況は決して好ましいものではありません。それだけ市場のボラティリティも増しつつあり、不安定さが徐々に浸透してきているように感じています。とはいえ、今後はトランプ氏の真意やその実現性が鮮明となってくるはずです。それが見えてきたところで、現在は気迷い的な株式市場も大きくどちらかに振れてくる可能性が否めません。前回、そろそろ2017年前半の相場の踏ん張り所に差しかかっているようだとの考えを示しましたが、依然としてまだその渦中にあると筆者は考えています。

さて、今回は先日関連法案が成立した「統合型リゾート(Integrated Resort:IR)」をテーマに採り上げてみたいと思います。なお、国会におけるIR法審議過程ではカジノばかりが注目されましたが、カジノはあくまで統合型リゾート(IR)の一部に過ぎません。ここでは、全体像としてのIRに焦点を当てて考えてみることにしましょう。まずは、IRのおさらいです。一般にIRとは複合型観光集客施設を指し、国際会議場などのMICE施設(Meeting(会議・研修)、Incentive(招待旅行)、Conference/Convention(国際会議・学術会議)、Exhibition/Event(展示会)などビジネス関連のイベント施設)、ホテル、商業施設、レストラン、アミューズメントパーク、エンタテインメント施設(カジノを含む)などが集積された区域がその対象となります。国内外観光客の訪問スポットとなり得るうえ、国際会議やビジネス利用も可能となれば稼働率の安定化やステイタス向上も期待できます。ビジネスでの利用者が今度はプライベートで訪問するようになれば、その集客効果も大きなものが見込まれるでしょう(この点が通常のテーマパークと決定的に異なる点です)。IRの経済効果は2兆円と見る向きもあり、総じて地域景気への追い風になるとの観測が一般的です。現在はIR推進法が施行された段階で、具体的な法整備、そして実際のIR施設の建設・運営まではまだ時間がかかることになりますが、株式市場は徐々にその関連企業にその期待を織り込んでいくものと予想します。

実はこのコラムでもかつて、「カジノ」を取り上げたことがあります。3年前のことですが、その際は建設投資などの初期投資関連よりも、運営の方に注目すべきではとコメントしました。日本で高い人気を博する有名なテーマパークでも見られるように、基本設計は海外資本からの導入になったとしても、日本ならではの運営が付加価値拡大に大きく寄与するだろうと予想したため、です。IRに関しても同様に、やはり運営においては日本企業が活躍できる余地が大きいのでは、と考えます。

ここではさらに議論を進め、テーマパークと比較をしてみましょう。そもそもテーマパークは、そのコンセプトや世界観などが一般に浸透しており、それに共感する人が積極的に訪問してその概念を確認(あるいはそれを上回る感動)することで満足し、リピーターとなっていくという仕組みです。しかし、IRはそういった特別な世界観を持たない分、一次訪問客の集客ハードルは高くならざるを得ません。もちろん、その一次訪問客を満足させてリピーターへ繋げる運営は非常に重要なのですが、その前に一次訪問客そのものをまず十分に獲得しておくことが不可欠となるはずです。そのためには、ビジネス利用の積極的な誘致が欠かせず、まずはビジネスで訪問してもらい、そこからプライベートの訪問に繋げるという流れを確立する必要があるでしょう。IR組織としては、MICE設備の充実に加え、企業や業界団体、国際機関に向けて誘致アピールしていくということが求められる戦略になると考えます。そこでは、メディアや広告・PRを使うことが有効な手段になるのではと想像します。これらの関連企業は、IR関連でメリットを享受できる「隠れた」テーマ銘柄になる可能性があり得るのではないでしょうか。

賢人会議として知られるスイスのダボス会議。既にその名前はブランド化されていると言っても過言ではありません。しかし実は、ダボスは訪問するにはちょっと不便でもあり、利便性という観点からはかなり見劣りする立地にあるのです。それでもここまでブランド化がなされ、多くの人が訪れています。ダボスとIRを同列に論じるのはやや飛躍がありますが、決してハコものや高度なインフラが成功のための必須条件ではなく、そういった「大物」銘柄だけがテーマで物色される対象でないことは確認しておきたいところです。


コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

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