第95回 「自動運転」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第95回 「自動運転」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。懸念されていた米トランプ大統領と安倍総理大臣の初会談も成功に終わったようで、会談で押し込まれることを警戒していた株式市場も一安心という展開となりました。徐々に政治リスクについては落ち着きを取り戻してきたように感じています。実態経済についても、4四半期連続でGDPはプラス成長となり、ここでも指摘してきた国内景気の回復基調が実際に確認された格好となりました。ただ、日経平均は一進一退となっており、まだまだ「トランプリスク」が払拭されたとは言い難い状態です。当面は政治リスクの低下と実態景気の回復が、株価の下値を固めていく展開になっていくものと予想しています。

さて、今回は自動運転を取り上げてみましょう。ここ数年で自動運転技術は急速に進歩し、一部機能の実用化も着実に進んできました。ハンドルから手を放しても自動車が動くTV-CMに衝撃を受けた方も多かったのではないしょうか。この衝撃を契機に、株式市場においてもテーマとして物色されるケースが増えてきていることは、既にご存じの通りでしょう。現在のところは、自動車メーカーや一部のIT(情報通信)・電機メーカーがその物色対象となっているようです。ただし、完全自動運転が視野に入ってくれば、その影響はこれらにとどまらず、現時点で予想もつかないものにまで波及する可能性があります。これは、CMの光景が衝撃的であったことからも、その「破壊力」がとてつもないことは十分想像できるでしょう。本コラムでは、それらの波及シナリオについて、大胆に考えてみたいと思います。当然、現実にはここでの予想を遥かに越えた展開となる公算は大きいのですが、こういったことを考えるのも楽しいものです。頭の体操として、お付き合いいただければ、と思います。

筆者がまず予想するのは、高齢者への影響です。昨今、高齢者の運転による自動車事故が頻発しています。高齢者には運転免許返上を、と指摘する声も少なくありませんが、自動車がなければ日々の生活に支障を来たすご家族や地域は非常に多く・広いことも事実です。自動運転はその絶好の解決策になる可能性があると考えるのです。運転そのものを一種のレジャーとも捉える若い世代にとっては、自動運転にそれほど魅力を感じない方も多いと思います。しかし、生活手段として自動車を利用している高齢者にとって、運転できるかできないかはまさに死活問題となります。完全自動化にまで至らずとも、自動化技術の進展は高齢化社会、特に自動車を必要とする地方における福音となるのでは、と想像します。これにより、地方における生活利便性の毀損は大きく抑制されてくるはずです。結果的に、地方発のビジネスチャンスが広がることにも繋がるのではないでしょうか。また、移動が安全かつ便利になることにより、それらに不安を感じていた高齢者(さらには免許取得経験のないご老人も)が自力で旅行に出かけるというケースも考えられるでしょう。既にアクティブシニア層は消費の大きな柱となっていますが、その年齢層がさらに上方に拡大するというシナリオも予想できます。

一方、自動運転となれば、自動車保険業界には大きな変革が求められると考えます。昨年、限定的とはいえ自動運転下にあった自動車において痛ましいドライバーの死亡事故が発生しました。この事故により、自動運転車が100%安全ではないということが図らずも露わとなったのです。今後は一層の安全性向上が図られるとは思いますが、完全自動運転世界においても、事故への備えは不可欠とならざるを得ないでしょう。では、自動運転下で事故が起きてしまった際の責任は、果たして誰が追うことになるのでしょうか。実はまだ不透明なままなのです。当然、法的整理は自動運転普及前にはなされるはずですが、従来型の運転者が自身で保険を掛けるという仕組みは大きく変わっていくことになるでしょう。こういった新しい仕組みが確立される局面において、新たなビジネスが発生すると予想しています。

さらには、既に指摘されていることですが、現在は深刻な人手(ドライバー)不足に悩む宅配業界においても自動運転は大きな影響を与える可能性があります。物品受渡の確認や集金システムなどの課題は多く残りますが、自動配送が可能となれば大幅なコスト削減にも繋がるかもしれません。自動運転は、かつてはSFの世界ではありました。それが現実のものとなってくれば、現在の常識は根底から覆るのかもしれません。そういった世界を想像するのは、子供の頃に戻ったようで、株式投資を考える以上にわくわくします(笑)。


コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

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