第248回 トランプ大統領議会演説、リスクかチャンスか【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第248回 トランプ大統領議会演説、リスクかチャンスか【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

トランプ大統領就任から1か月あまりが経過しました。
今週は28日21時(日本時間の明日3月1日11時)トランプ大統領の議会演説が注目されています。就任1期目の米大統領は、年初に基本政策を示す「一般教書演説」に代わり、議会演説として議会や国民に向けて政策を説明することが慣例となっていますが、スパイサー大統領報道官は23日の記者会見で、トランプ氏がインフラ投資の詳細についても言及する見通しだと発言しています。市場関係者らの関心が高まらないワケがありません。演説を受け政策への失望感が広がるかどうかがポイントとみられているのです。

NYダウは24日金曜日までに11日連続で史上最高値を更新しました。足元の米国株上昇の背景には、トランプ政権で実施されるであろう大型減税への期待があります。2月9日トランプ大統領は、今後2~3週間のうちに税制に関する驚くべき発表を行うとの考えを示しました。その後2月23日には法人税率の引き下げについて目標は「15~20%だ」と表明しています。議会演説での発言内容が、米国株の期待をつなぐことができるか、失望に変わってしまうのか。ところが、ムニューシン米財務長官は米メディアとのインタビューを通じ、税制改革について議会が8月の休会前に承認することが望ましいと言及しています。米国新年度入りは10月ですが、8月休会前承認というペースでは9月新年度からの減税実施の可能性は極めて低く、年が明けて2018年から実施されると見るのが妥当です。となると、減税実施はあと1年先ということになりますが、それにしては米国株はそれをかなり織り込み過ぎてしまっているのではないか、との慎重な意見も聞かれます。しかしムニューシン氏が8月休会前までに、と発言したことへの失望の売りが米株市場を崩したという形跡はなく、目下市場は28日のトランプ大統領議会演説に向けてポジションを構築、整理しているものとみられます。

では、トランプ大統領の演説内容が市場の期待に応えるものではなかった場合、米国株は大きく崩れてしまうのでしょうか。そして、米国株が崩れるのと一緒にドル/円相場も大きく円高に振れるということがあるでしょうか。

ポイントは「市場のポジションがどちらかに偏り過ぎているか」です。期待が大きく現状マーケットが米国株買いに偏りすぎていれば、これは大きなリスクです。しかし、S&P500先物市場の投機筋のネットポジションを確認すると、大統領選以降、12月に向けて意外にもショートポジションが積みあがっていきます。12月初旬にネットショートは頭打ちとなり減少に転じ、12月末にネットロングへ転じました。その後1月28日公表分がネットロングの頂点となり、2月以降はロングポジションは減少の一途を辿っています。つまり、12月までの米国株上昇はトランプリスクにかけたショートポジションが買い戻される過程でのショートカバーの影響によるところが大きかったと想像できます。1月には新規買いも手伝って上昇したものの2月に入ってからは再びショートが買い戻される過程で米国株が上昇していった可能性が高いとみられるのです。要するに、現状に於いて米国株に買いの過熱感はほとんどないということですね。
同じように為替市場、ドル/円相場の先物市場の投機筋ポジションを見ると、ドル/円のショート、つまりドル買い方向にリスクを取るポジションは減少の一途をたどっており、ポジションの偏りから、大きな下落リスクが存在するとは思えません。

むしろ今、ポジションの偏りが警戒されているのは米国債先物市場での米国債ショートです。これが巻き返される時に引き起こされるのは米国債の買戻し(債券価格の上昇)リスクです。これによって米金利が低下すれば米国株は、さらに上昇する可能性も否定できません。ポジションの偏りがない分、米国株には十分に買い余地がある状態なのです。

米国債券価格が上昇すれば、米金利が低下しますので、ドル/円相場には下落圧力となりますが、米国株が一段高となるならば、それほどすさまじい下落につながるとは思えません。
テクニカル的には、トランプラリーによって上昇した値幅の50%押し水準である110円くらいまでは、何かショックがあれば下がる余地はありますが、その後は米株上昇や、将来の金利上昇思惑がフリーホール的下落を阻むものと思っています。

トランプ大統領の演説が、相場のボラティリティを高めるリスクは想定しておいたほうがいいと思われますが、仮にドル/円相場が大きく下落することがあれば、そこはこれまで買えなかった輸入勢にとっても絶好の買い場となるでしょう。リスクイベントをチャンスに変えるには、こうした事前の想定も大切です。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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