マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場は国内国有地払下げ問題の継続やトランプ相場の神通力が鈍ってきたのを嫌気してか、久々に日経平均で19,000円を割り込む展開となりました。特に、国有地払下げ問題はメディアの注目も大きいのですが、きな臭さを増している東アジア情勢やここにきて失速感が見え始めた景気動向など、どうも喫緊の重要課題は後回しとなっている印象が拭えません。当然ながら、政治の停滞は経済にとってもよいはずはなく、今後の展開は俄かに不透明感が増してきたように感じます。現状は株価を引き上げて行くほどの新たな好材料も見当たらない状況です。当面は方向感のない相場が継続するのではと予想します。
さて、今回は先般にあった東京のタクシー料金の改定、所謂「ちょい乗り」をテーマに取り上げてみましょう。1月末、東京ではタクシーの初乗り新運賃が改定されました。従来は初乗り2キロまで730円が上限の初乗り運賃だったのですが、新運賃では1.052キロまで410円が上限となりました。これは、短距離の利用では料金引下げとなる一方、中長距離の利用では現行よりも割高になるという設定となります。施行より2か月が経過しましたが、利用者の反応は上々で、短距離の移動を「ちょい乗り」する利用者も増えたとの評価が一般的のようです。この改定は、国際的には高い印象の強い初乗り料金を引下げ、需要を喚起することが目的でした。さらに、外国人観光客の増加により、彼らの移動需要を取り込んでいくという狙いもあったのではないか、と筆者は見ています。外国人観光客の視線はまさに国際比較となるため、彼らの認知を得るには海外の初乗り運賃を意識せざるを得なかったのではないでしょうか。これまでのところ、その試みはうまくいっているように感じています。
そもそもタクシー業界は厳しい状況を長期間余儀なくされてきました。タクシー(ハイヤーを含む)の輸送人員や営業収入のピークはバブル期絶頂期の平成元~2年にまで遡ります。現在はピークに対し輸送人員で半分以下、営業収入で約65%に過ぎません。一方、車両数は同期間で10%も減っていませんから、生産性は大幅に低下していたのです。そういった事態に対し、これまでは値上げにより収入増を図る施策が打たれてきましたが、今回の改定はむしろ実質的な値下げで需要を掘り起こす手段が採られました。今回の改定は、かつてとは異なる画期的なアプローチとも言えるでしょう。しかし、今回の改定により、タクシー運転手も駅前で長距離客を待つという従来の手法の有効性が薄れ(長時間待っても、短距離客に当れば時間効率はさらに悪化してしまう)、如何に効率よく利用者を確保して行くかという創意工夫が問われることとなりました。当然、これは利用者にとってもサービスの向上に繋がるのではないか、と想像しています。
では、これによりどういった株式の投資戦略が考えられるでしょうか。上場しているタクシー会社もありますが、その数はわずかであり、投資対象の広がりには欠けます。ここでは、もう少し捻って、これにより連想される経済効果を予想してみましょう。まず思いつくのは、「ちょい乗り」における広告効果です。「ちょい乗り」によりタクシー利用者が増えるとすれば、当然、そこに向けて何らかの広告を打つ合理性が生じてきます。乗客が車中でぼんやりしている時間になんらかのメッセージを伝えることも可能でしょう。これまでは利用者数が漸減していたために広告効果も期待度は低くならざるを得ませんでしたが、乗客が増えるとなると話は違ってきます。「ちょい乗り」の乗車時間はわずかでしょうが、その分、インパクトのある広告を大胆に打つという挑戦もできます。広告企業やそれに特化するようなベンチャーなどにはビジネスチャンスとなるのではないか、と想像します。
究極的には、自動運転導入の試金石になるのでは、とも考えます。「ちょい乗り」は、データを集積すれば頻繁に利用されるルートを炙り出すことができるはずです。そして、ルートを絞り込むことができれば、自動運転などを将来に導入することも可能となってくるのではないかと予想するのです。しかも、「ちょい乗り」は距離も短いことから、自動運転導入のリスクやトラブルも最小限に抑制することができます。自動運転は個人の乗用車への導入が一般的な印象でしょうが、「ちょい乗り」タクシーこそ実はその効果が大きいとも言えるでしょう。当然、自動運転となれば運賃はさらに引下げられる可能性もあります。「ちょい乗り」から自動運転ではかなり飛躍した議論のように見えるかもしれませんが、そこにルート確定というピースを当てはめれば、かなり合理的な流れが見えてきます。他にも、ルート確定からは様々なビジネスチャンスが広がるのではないでしょうか。発想を豊かにいろいろ考えてみるのも楽しいものです。
コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)
日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。
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