第254回 米中首脳会談と有事、その時円は...。【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第254回 米中首脳会談と有事、その時円は...。【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

注目された米中首脳会談、北朝鮮問題も議題に上るだろうことは予想されていましたが、もっと大きなテーマは通商問題。平時であれば、、、ですが。米国の最大の貿易赤字国である中国と、アメリカ・ファーストを掲げるトランプ大統領がどのような交渉をするのか、その結果によってはマーケットにも影響が及ぶとして警戒が強まっていましたが、晩餐会直前の米国のシリア爆撃という予想外の展開に7日金曜日の東京市場は一時リスク回避の株安、円買いにさらされました。北朝鮮が米中首脳会談直前となる5日に弾道ミサイルを発射したことを受けて、有事を想定していたマーケットにとっては、そのタイミングやエリアが思惑と異なったとはいえ大きなサプライズではなかったように思います。実際、シリア爆撃の報は7日金曜日の東京時間前場に伝わり、ドル/円相場は110円節目を試すところまで円高ドル安が進行する局面がみられたものの、110円大台を割り込むことなく買い戻されました。株式市場も瞬間売り込まれたものの、大引けでは日経平均はプラス圏へと押し戻されています。同日NY市場でも予想より悪かった3月の雇用統計の数字を受けて再び円高進行となるも、110円の壁を破ることなく反発し、NYクローズに向けては逆に111円台へドル高が進行する結果となっています。今回の場合、すでにドル/円相場は110円台へと円高が進行しており、日経平均も18,000円台へと下落基調が続いていたため、有事に備える動きは事前に出ていたことで「事実で買い戻す」動きが出たものと想定されます。ただし、これが限定的な有事であれば、の話です。
米海軍当局者は8日、原子力空母カール・ビンソンを中心とする第1空母打撃群が、シンガポールから朝鮮半島に向け、出航したと明らかにしています。米中首脳会談の晩餐会というタイミングでのシリア爆撃は、中国に対し北朝鮮問題の解決を迫る意向が強く滲み出るものだったと思いますが、米中首脳会談の後、ティラーソン国務長官は米中両国にとって懸念材料であり続けている北朝鮮の核能力への具体的な対応措置では何も合意できなかったと述べていることも気がかりです。4月15日が北朝鮮の金日成国家主席の生誕105周年記念、25日が北朝鮮軍創建85周年記念ということで、その記念日を前に4月11日に平壌では国会にあたる最高人民会議が開かれる予定です。最高人民会議開催の時期に合わせ、北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射する可能性が想定され、この時米軍がどのように動くのかという意味では、さらなる有事に緊張が高まっていると言えるでしょう。週末にかけては、有事想定の円高予想が急激に広がっている印象です。
では、なぜ有事が想定されると円高となってしまうのでしょうか。
平成27年末現在本邦対外資産負債残高
財務省HP
を確認すると、日本の対外資産合計948兆円に対し負債合計が609兆円。差し引きで算出される純資産合計が339兆円にも上ることが確認できます。資産というのは、海外に対して色々な形で貸し付けているもので、負債は海外から色々な形で借り受けているもの。日本の対外純資産高は26年まで4年続けて増加していましたが、27年は対ユーロ、ポンドで円高となったことが影響し5年ぶりに微減となりました。ただしこの金額は25年連続で世界1位です。対外純資産の増加は、アベノミクス以降の円安の影響も大きいのですが(外貨で保有していた資産の円の換算額が膨らむ)国内企業による海外企業へのM&Aなどの直接投資も増えており、2016年の日本企業による海外M&Aは635件で10兆4,000億円にも上っています。

市場がリスク回避姿勢を強めると「保有資産のレパトリ(本国還流)」が引き起こされます。2016年、WTI原油価格が80~90ドルの安定した値動きから下落となり26ドル台にまで急落した際には、オイルマネーが原油安からの財政赤字補てんのために世界に投資していた資金を引き上げたことで、日本株などが売り込まれましたが、日本の対外純資産においても同様の連想が働くと考えられます。つまり、対外純資産が大きい日本が外貨建て資産の売却を行い、自国に戻すということは自国通貨買い、円高となるのではないか、という思惑に繋がるというわけで、これが、米ドルよりも円が選ばれる背景にあるものと考えられます。

※本邦対外資産負債残高は年末残高を翌年5月末までに対外公表されるため平成28年末の対外純資産高はまだ数字が発表されていません。

平時であれば、日米の金融政策の違いや貿易上の需給背景から過度な円高となることは考えにくく、110円の下値の堅さから見れば110円より円高となることがあっても一時的なものに終わるように考えています。加えて指摘しておきますが、有事ではドルも買われます。足元で、ユーロやポンド、豪ドルなどの他通貨が弱いのは「有事のドル買い」が起こっているという側面もあるのではないでしょうか。米ドルは基軸通貨であり、流動性や信頼性が高い安全資産であるドルを保有しておきたいというニーズが高まります。よって、米国による対外投資資金も米国に還流する動きが起こり、ドル高となるということが、1990年に発生したクウェート侵攻や、2006年のレバノン侵攻などで確認されています。足元の値動きは、円以外の他通貨では「ドル買い」です。厄介なのは、有事は「ドル買い円買い」なのです。基軸通貨であるドルよりも対外純資産世界一である円のほうが強いのが現状、ということで円高バイアスが強いのですが、為替市場全般でみれば「有事はドル買い」圧力が強まることを覚えておきましょう。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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