マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
リスクと言うと「暴落するリスク」を想起しがちですが、売り方にとっては暴騰することもリスクとなります。フランス大統領選挙の決選投票は中道・無所属のマクロン候補が極右政党のルペン候補を破り勝利を収めたことで、GW明けの日本株市場では日経平均が年初来の高値を更新する大幅上昇となりました。2016年は英国EU離脱、米国トランプ大統領誕生といった「想定外の結果」をもたらしたイベントが記憶に新しく、今回は万が一の「フレグジットリスク」に備える動きが4月半ばまでの日経平均の下落、ドル/円の108円台までの下落につながっていましたが、4月の第1回投票でルペン党首が敗退したところから、下落に歯止めがかかり巻き返し相場がスタート。ひとまず解体の危機を免れた通貨ユーロは、第1回投票後の4月24日月曜日、窓を開けて大きく上昇して寄り付いた後、窓を埋めることなく上昇を続け、今回7日の決戦投票でフレグジット危機が消えたことが確信となったことで、8日月曜日は高く寄り付きました。しかし、今回ユーロ上昇は続かず、寄り付きが高値となってユーロは下落に転じています。
リスクは去ったのに、なぜユーロはさらなる上昇とならなかったのでしょうか。その背景には、リスクをヘッジしてきた企業や投資家らが、ヘッジ解消に動いていることがユーロの大きな上昇につながってきたのですが、4月の第1回投票後は、マクロン氏勝利を織り込む形でユーロを買い、参戦していた向きも出てきたことにあります。マクロン勝利にかけたユーロの買い方は、マクロン勝利が確認できたことで利食いの材料となりました。これは「材料出尽くし」の売りと呼ばれる動きです。
IMM通貨先物ポジションでヘッジファンドらのユーロの売買動向を確認すると、ギリシャリスクやドイツ銀行リスクが指摘されていた頃には、20万枚にも上るユーロの売り越しが確認され、市場ではユーロ/ドル相場のパリティ(等価1ドル1ユーロになること)見通しが蔓延していましたが、今回のフレグジットリスクでは、ユーロの売り越しはそれほど膨らんでいませんでした。それどころか、足元ではユーロの売り越し枚数はわずか19,000枚程度しかありません。(最新データ5月2日時点)ファンド勢らはユーロショートを減らす一方でユーロロングも形成してきたことで、ユーロ/ドル相場での、ポジションの偏りがほぼなくなってしまったことが確認できるのです。ファンド勢がさらにこの動きを加速させれば、ポジションは買い越しに転じることになります。ファンド勢らの投機ポジションが相場の方向を占うものではありませんが、縮図として方向を見るうえでの目安にはなります。米国が利上げサイクルに入っている中で、ファンド勢らのポジションがユーロ買い越しに転じ、ユーロがさらに上昇することはあるでしょうか。
仏大統領選を通過したことで、市場の関心は6月8日のECB理事会に移るとみられます。前回4 月27日の理事会でECBは政策金利を長期に渡り、現行またはそれ以下の水準にとどめるとの方針を改めて表明。量的緩和プログラムを少なくとも2017年末まで続ける方針を改めて示しました。ドラギ総裁はユーロ圏経済の改善を認めつつ、コアHICPなどでみる基調的な物価上昇圧力は依然として弱いとして、金融緩和を早急に縮小する必要はないとの認識を強調しており、市場の一部で期待されていたECBの出口論議はなかった模様。しかし、足元のユーロ圏経済は堅調です。4月のユーロ圏製造業購買担当者景気指数(PMI)は56.8と2011年以来の高水準で、2月のユーロ圏の失業率(19ヵ国)は9.5%と2009年以来の低水準となっており、市場には次回6月8日の会合で、景気のリスクバイアスの認識を中立にする等、出口戦略に向けた地ならしに入るのではないか、との見方が。こうした期待が強まればユーロは一段高となる可能性が考えられます。
しかし、同時にマーケットの関心は6月の米国の利上げにも向かっており、先週末5日金曜日に発表された米国4月の雇用統計の好結果を受けて、CMEフェドウォッチと呼ばれる金利先物市場における6月の利上げ織り込みは80%近くにも上昇しています。2015年12月、2016年12月、そして2017年3月の過去3回の利上げ局面では、FOMCに向けてドル買いが進み、FOMCで予想通り利上げが発表されると、「材料出尽くし」でドル上昇が終焉するというパターンが繰り返されており、今回もそのような動きが出るならば6月13日-14日のFOMCに向けてはドル買いが旺盛となる可能性も。その場合ユーロは下落を強いられることとなります。
ここからの市場の関心は、順番で言えば6月8日のECBが先ですが、為替市場ではECBよりもFOMC、米国の金融政策がより注目度が高いため、ここから先はどちらのイベントがマーケットのテーマとなるのか、現時点では読み切れません。今週は米国のCPI消費者物価指数などのインフレ指標が発表されることもあり、米国の金融政策に注目度が高まるとみていますが、フランスの大統領選という大きなリスクイベントが無難に通過したことで、ユーロ上昇は一服、今週は調整局面入りとなるのではないでしょうか。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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