マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
オセアニア通貨が明暗分ける値動きとなってきています。豪ドルが冴えない値動きを続ける中、NZドルがしっかりと下値を切り上げてきました。何故豪ドルが売られNZドルが買われているのでしょう。
米格付け大手ムーディーズは24日、中国の長期国債格付けを「Aa3」から「A1」に引き下げました。先行して格下げしていたフィッチ・レーティングスとは同じ水準となり、スタンダード・アンド・プアーズも今後追随する可能性が出てきました。格下げの理由は「中国の経済成長の鈍化や債務の増大により、財政健全性が次第に低下していくとみられる」ことが挙げられています。中国の格下げ後、豪ドルの下落が加速しました。
オーストラリア準備銀行(RBA)は、中国の減速で資源ブームが終息し景気の停滞感が顕著となってきたことから、政策金利を段階的に引き下げ、金融を緩和的に運営してきました。
今月5月2日にも理事会を開催し、政策金利は過去最低の1.5%に据え置かれました。豪州の政策金利は2008年には7.25%もありましたが、段階的に引き下げられてきました。2009年には3%にまで引き下げられたものの、インフレの兆候が顕著となってきたため2010年には4.75%まで利上げされたのですが、再び利下げサイクルに入っています。
足元では4月26日に発表された豪州の2017年1~3月期の消費者物価指数(CPI)が、前年比2.1%上昇となり、2014年7~9月期以来の2%超を達成しました。2016年4~6月期に前年比1.0%と直近での最低値となった後、7~9月期に同1.3%、10~12月期に同1.5%と着実に上昇してきており、インフレの兆候が出てきました。豪州のCPIは四半期に一度しか発表されませんので、RBAはこの数字を重視する傾向が強く、このCPIを受けて、豪州の利下げのサイクルは完全に終焉し、次の一手は利上げになるのではないか、という市場関係者もあります。しかしながら、豪ドルは一向に上昇に転じていません。
というのも先に記述したように、中国の減速が豪ドルを強気転換させない理由となっています。鉄鉱石大国の豪州は、鉄鉱石価格の動向が景気や豪ドル相場にも影響を及ぼしています。豪州の鉄鉱石輸出は、輸出全体の約四分の一を占め、中国向けが最大です。豪州は鉄鉱石などの資源を中国に輸出することで、中国の台頭とともに成長してきましたが、このところの中国の成長の鈍化で鉄鉱石価格が下落に転じ、豪ドル相場もこれに連れる形で下落基調となっているのです。鉄鉱石など資源価格が上昇してこないと、即ち中国による旺盛な買いがみられなければ豪ドルの上昇は厳しいということでしょう。
一方でニュージーランド。
今月5月11日のニュージーランド準備銀行(RBNZ)は金融政策決定会議で金利据え置き、緩和的な姿勢の継続が決定されています。この時、NZドル相場は急落しました。NZドルもまだまだ強気には見られないのか、と思わせる値動きでしたが、5月24日に発表された4月のNZの貿易収支は、5億7,800万NZドルの黒字となり、輸出が予想以上に伸びたことに加え輸入額も増加、内需の力強さをも窺わせる内容となりました。月間ベースでは2015年以来の大幅な黒字です。2016年4月と比較して、2017年4月の商品輸出は4億2,300万ドル(9.8%)増の48億ドルとなり、4月の最高値を更新。特にミルクパウダー、バター、チーズは2億8,900万ドル(35%)もの増加を記録しました。もうおわかりですね。外務省のHPを確認すると2016年のNZの酪農製品の輸出産業の割合は、全体の23.1%にも及びます。NZ経済にとって乳製品価格はかなり重要なのです。
この乳製品価格は、NZの乳業大手企業フォンテラが月に2回行う「乳製品価格オークション」における「GDT(グローバルデイリートレード)物価指数」。こちらはNZドルトレーダーにとっては重要な指標です。GDTオークションスケジュールは「GLOBAL DAILY TRADE」、こちらのページを参照
(http://www.globaldairytrade.info/en/gdt-events/calendar/)
そしてオークション結果はこちらのページで確認できます。
(http://www.globaldairytrade.info/en/product-results/)
この結果を確認すると、5月16日開催の最新オークションまで5回連続でGDT価格は上昇しており、乳製品価格は上昇基調に入っていることがわかります。こうした中でフォンテラは、2016~2017年度に生産者に支払う乳価の予想を引き上げました。
鉄鉱石価格は下落基調である反面、乳製品価格は上昇基調となっていることが豪ドルとNZドルの明暗を分けているものと思われます。米ドルが政策金利引き上げに反応が鈍くなってきた今、こうしたコモディティ価格動向の注目度が高まってくるでしょう。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
TwitterAccount
@hirokoFR
マネックスからのご留意事項
「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。
商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。