マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
中国の都市部、特に北京や上海などの大都市では、住宅価格の上昇が止まらず、20代から30代の一次取得者(初めて住宅を購入する)層からの「高すぎて手が届かない」との不満が高まっています。
中小都市では、複数物件の所有の制限や、購入時の最低頭金比率の引上げ等の対策により、価格上昇が一服し、さらに一部の都市では地方政府が主導して行った開発案件が大量の未入居物件を生み、「ゴーストタウン」が形成されているとも報じられており、対比が際立っています。
中国では、結婚の際に、新郎が住宅と自動車を用意することが一般的とも言われており、大都市では、親や親族からの十分な援助が得られないと結婚もできないという厳しい状況が生じています。
北京在住の呉さん(男性、28歳)は、結婚を機に、昨年冬に60㎡のマンションを200万元(約3,300万円)で購入しました。
代金は銀行の住宅ローンと親族からの借入で賄い、今後長期にわたり返済が続く予定です。
結婚が購入の動機になったとは言え、彼は少し前までは、30歳になる前に住宅を購入するなどということは考えていなかったそうです。
北京では住宅市場鎮静化のため、住宅ローンへの規制が強化されており、購入価格の25%までしか借りられなくなっています。
そのため、200万元のうち、150万元を親族から調達することになりました。
若い夫婦にとっては大変な重荷ですが、それでも、呉さんは「早く購入した自分は幸運だった」と考えています。
というのも、彼が購入した後に、北京の住宅価格は急激に上昇し、もし購入をためらっていたら、面積や立地などでより条件の悪い物件にせざるを得なくなっていたからです。
仲介業者の「房.com」によると、北京の住宅価格は、昨年10月に平均で1㎡当たり56,000元(約92万円)でしたが、今年3月には同63,000元(約103万円)に上昇しました。一方、人材情報サイトによると、この間の賃金の上昇は1%にとどまっており、北京で若い人たちが住宅を購入するためには、余程の高収入か、親あるいは親族の手厚い援助が必要という厳しい事態が起きています。
これほどの価格上昇があれば、複数の物件を所有し、転売で売却益を得る、あるいは賃貸に供して賃料を得ることができる人が最強となります。
一次取得者、あるいは購入できるだけの財力が無い人との差は開く一方です。
自動車の購入や、海外でのブランド品、日用品などの購入も同様ですが、中国では個人の消費について、政府の政策が強く影響し、動向を左右しています。
日本でも住宅ローン減税、エコカー減税などで購入を喚起し、景気拡大につなげようとの政府の思惑が透けて見えますが、中国では、特に住宅市場にもたらす政府の影響力は日本よりも遥かに強いと言えます。
それだけに、既に購入した人達には、「価格の暴落はない。政府が何とかしてくれる」との期待感が強く、一方でこれから取得する層にも、「政府が何とかしてくれるだろう」との望みがあります。
政府は「暴騰も暴落も許されない」という板挟み状態になっています。
もっとも、既に一般市民には到底手の届かない水準に達しており、住宅価格は、これまでも何度か申し上げております、「貧富の差の問題が顕在化」の懸念を象徴するものになっています。
住宅だけでなく、株式市場でも、個人投資家の「政府が何とかしてくれる」との期待は根強く、これが価格形成をいびつにしているようにも思います。
計画経済を経験しているという過去の経緯があるとはいえ、市場原理の貫徹が難しいことが、ビジネスにおいても、また社会の健全性という点でも、さまざまな問題を引き起こしているように見えます。
住宅購入を巡り、市民の間で明暗が分かれるという話題でした。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト
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