マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
カナダドルに注目が集まっています。2017年1月のカナダ中央銀行の金融政策会合では、米政権の動きなど外部要因の不確実性を踏まえ「追加利下げも検討した」として、今年年初はカナダの金融政策は極めて緩和的と見られていましたが、住宅価格の大幅上昇と家計債務の拡大に伴い、一転して金融引き締めスタンスに転じる可能性が出てきました。
カナダの政策金利はリーマンショック以降0.5%にまで引き下げられ、現在0.5%の政策金利は15会合連続で据え置かれています。
1月会合では「利下げ」も検討されていましたが、4月12日会合では利下げは議題に上らなかっただけでなく、四半期に一度公表される金融政策報告書では、2017年の実質GDP成長率の見通しが大幅に引き上げられていました。2018年前半に経済の稼働率が上がれば、利上げが必要になるとの見通しも同時に発表されており、これまでの2018年中盤の利上げ見通しから前倒しされました。よくよく考えれば、この金融政策報告書がスタンスの変化を読み取る大きなヒントであったと思われます。
しかしながら4月26日、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を求める米政権が、貿易不均衡を巡る批判の矛先をカナダに向け始めます。カナダの材木や乳製品を巡る貿易摩擦の再交渉が必要だとし、ロス米商務長官はカナダ産針葉樹材の輸入に平均20%の相殺関税を新たに適用する方針を明らかにしました。カナダの対米輸出は全体の約80%に及ぶため、対米貿易の先行き不透明感はカナダドルの売り圧力につながってしまいます。
こうしたニュースを受けて、マーケットはカナダドル売りを加速させました。シカゴ通貨先物市場における投機筋らの対米ドルでのカナダドルの持ち高は、3月21日に再び売り越しに転じてから売り越しが膨らみ続け、5月23日にはおよそ9.9万枚の売り持ち超過となっています。
ところが先週12日、カナダ中央銀行のウィルキンス上級副総裁が、国内経済が成長を続ける中で、中銀は政策金利を過去最低水準に維持するべきかどうか検討すると語り、利上げを示唆するような発言を行いました。第1・四半期の成長率が「かなり印象的」で「成長が続き、理想的にはさらに幅広くなるとともに、現在実施している相当規模の金融緩和がなお必要かを中銀は判断することになる」と語ったのです。
これを受けてカナダ国債の利回りは大きく上昇。カナダドルは大きく買い戻されました。翌日13日にはカナダ中央銀行のポロズ総裁も、国内経済は原油相場の急落による落ち込みから回復しており、2015年に実施した利下げはその仕事をほぼ終えたとの認識を示しています。輸出の約30%をエネルギー関連製品が占めるカナダ経済にとって、原油価格の下落は大きなマイナス要因であり、2015年に26ドル台にまで下落したWTI原油価格が、0.5%にまで政策金利の引き下げを余儀なくさせた背景にあったかと思われますが、その後のOPECの減産などで原油価格は安値からは回復しています。
カナダ中央銀行が、緩和から引き締め方向へとスタンスを転換させようとする背景には、
住宅市場の過熱警戒があると思われます。国内最大の住宅市場であるトロント市近郊の住宅物件価格は4月に30%超もの上昇となっており、トロントとバンクーバーの住宅価格は2009年以降2倍以上に跳ね上がっています。
前述したように、シカゴ通貨先物市場には巨大なカナダドルのショートが積みあがったままです。最新のデータでは6月13日時点でファンド勢らのカナダドル売り越しが8.8万枚で、まだまだショートポジションは整理されていません。これらのショートポジションが買い戻されれば、カナダドルの大きな上昇につながる可能性があり、まだまだカナダドルは上昇余地が大きいと思われます。カナダドル/円の日足チャートを見ると一目均衡表の雲の上にろうそく足の実態が抜け出てきました。押し目買いでカナダドル/円の大きな上昇トレンドを狙ってみたい局面です。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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