マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場はまだぐずついた展開が継続しています。ようやく日経平均は2万円を固める様子が見えてきたものの、定着とみなすにはまだ不安の拭えない状況と云えるでしょう。株価に影響を与える可能性のある材料も、決算発表の一巡、米国利上げの実施など、当面は一巡してしまった印象です。今後しばらくはテーマ株などの個別物色相場が続き、市場全体が大きく動くような材料待ちといった状況が続くのでは、と考えています。
さて、今回採り上げるテーマは「エンゲージメント」です。エンゲージメントとは、直訳すると「約束」「言質」となりますが、ここでは「株主と経営陣との対話」という意味で用いたいと思います。実は数年前より、スチュワードシップ・コード(責任ある機関投資家の諸原則)が提唱されたことを契機に、機関投資家では中長期的な企業価値成長を見極める目的で企業経営陣との対話を重視する傾向が高まっています。同時に、企業サイドにもコーポレートガバナンス・コードが定義され、企業もまた株主との建設的な対話が求められるようになりました。現在はちょうど株主総会ラッシュのタイミングですが、昔ながらのシャンシャン総会は今やほとんど見られず、企業はより積極的に株主と対話をしていこう、という姿勢も鮮明です。企業と株主が歩調を合わせて企業価値を高めようという動きと云え、当然、これらは株式投資という観点から見ても良い事であるように思えます。
さらに最近は、このエンゲージメントをさらに強調した「エンゲージメント・ファンド」や「エンゲージメント・アクティビスト」と呼ばれる存在も目立つようになりました。もちろん、これらも企業価値向上のために積極的に経営陣と対話し、また相応の施策を提案していくという投資行動を採ることを旨としていますが、通常の機関投資家と比べて多くの株式を保有することでより強い発言権を得、それをテコに対話していこう、というスタンスが濃いように見受けられます。(匿名)ファンドやアクティビストというと、かつての乗っ取り屋や企業と対立も辞さない強引な株主要求という印象は拭えませんが、エンゲージメントを謳うこれらは企業成長に資するための、より友好的かつ現実的な株主要求を旨とするような位置づけにあります。イソップ童話になぞらえて、かつてのアクティビストが企業に対して「北風」で変革を要求したのに対し、エンゲージメントは「太陽」によって変革を要求するといった指摘もあるほどです。企業側も、株主側の株式取得意図が不鮮明なうちは警戒せざるを得ないのでしょうが、かつてのような強烈な拒否反応が噴出するという例はめっきり減った印象です。
では、これらはどの程度成果がでているのでしょうか。結果が確認されるまでに、ある程度の期間を見る必要はありますが、筆者の知る限り、概ね企業価値の向上に寄与しているように思えます。企業側がエンゲージメント・アクティビストの助言・提案に心理的抵抗感を覚えるケースも少なくはないのでしょうが、否が応でもそれへの対応を始めたことが、企業を結果的に大きく変化させる起点となったという例が多いのではと考えるのです。実際に筆者が目にした例を挙げると、かつては石橋を叩いても渡らないほど保守的な経営で、財務的にも無借金で潤沢に現金を抱え込んでいた企業が、こういった株主の出現により大きく経営が変化し、今やM&Aを積極的に実施するグローバル企業へと脱皮したケースがありました。果たしてその株主が経営陣に何らかの、具体的な働きかけをしたのかどうかは知る由もありませんが、少なくとも企業が大きく変わるきっかけとなったことは間違いありません。筆者はおそらく、こういった株主から正式な提案が届く前に、経営陣が警戒感から先手を打った公算が大きいと感じていますが、それでも企業が変わっていく契機になったわけですから、大きなメリットがあったということができるでしょう。こういった例は決して少なくないはずです。
そういった意味で、エンゲージメントという友好的なスタンスは、世論や経営陣の反発を抑制しつつ、実際に企業を変えるきっかけになるという仕組みのように感じています。北風と太陽とは、実によい例えと云えるでしょう。一般の投資家が望むことは、手法が北風であろうと太陽であろうと、詰まるところ投資している企業の企業価値が高まることに他なりません。もちろん、一部の株主の要請・提案が全て正しく、企業価値の拡大に直結すると断じることは決してできませんが、経営陣が緊張感を持って経営に臨み、そういった株主の要請・提案を受ける前に自ら改革を進めていくこととなれば、やはりその効果を評価すべきでしょう。エンゲージメント・ファンドが対象に挙げる企業群を、そういった視点で見てみることもまた、投資の一手法になるものと考えます。
コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)
日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。
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