第266回 テーパータントラムって何?2017年後半の最大のリスク【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第266回 テーパータントラムって何?2017年後半の最大のリスク【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

ドル/円相場は、円高圧力が弱まり上昇基調に入ったように見えますが、目を見張る値動きは、ユーロ/円、ポンド/円、カナダドル/円、豪ドル/円、NZドル/円といった「クロス円(※)」の上昇です。ドル/円相場は「ドル高」で上昇しているというより、クロス円上昇に連れ高となっているのです。つまり、今回のドル/円上昇は「円安主導」。日銀が新たな緩和政策を発表したわけでもありませんし、足元で貿易赤字が拡大しているわけでもありません。何故、為替市場では円安トレンドが進行し始めたのでしょうか。

※クロス円=米ドル以外の通貨(ユーロ/ポンド/カナダドル/豪ドル等)と日本円のペアを指します。対して、「米ドル」と他通貨の組み合わせのことを「ドルストレート」と呼びます。したがってドル/円はドルストレートになります。

ヒントは債券市場。ドイツ、フランス、英国、カナダ、豪州、NZ...各国の長期債(10年国債)利回りが急反発、上昇を始めたのです。米国債の利回りも同様に上昇に転じていますが、特にドイツやフランス、英国など欧州圏国債の利回り上昇が大きい。ユーロやポンドが足元で上昇しているのはこのためです。債券利回りが上昇しているということは、債券が売られているということです。一体何が起こっているのでしょうか。

テーパータントラムという言葉をご存知でしょうか。2013年5月22日、当時のFRB議長であるバーナンキ氏が、議会証言における質疑応答で量的緩和第3弾(QE3)の早期縮小に向けた出口戦略(債券購入の減額を模索していることを明らかにした)に言及したことで債券市場では債券売りが広がり金利が急騰、世界の株価が急落しました。翌23日には日経平均が1,000円以上の大暴落を演じたことを記憶している投資家も多いと思います。この時、米10年債利回りは一時3%まで上昇しています。

この時の金融市場の動揺と混乱はテーパータントラムと呼ばれています。米国が量的緩和縮小(テーパリング)政策に舵を切ることに言及したショックを「temper tantrum=癇癪(発作)」にかけて表現したのです。テーパリングにより市場が癇癪を起こしたというニュアンスですね。足元の債券利回り上昇は、「テーパータントラムの再来ではないか」こんな指摘が一部に出始めています。

ECBのドラギ総裁は、6月27日の演説で経済の回復を強調し、デフレ圧力はリフレの力に置き換わった」と指摘しました。また、インフレを抑制している要因は「一時的なもの」との見解を示し、これが市場でECBのテーパリング観測を強める結果となりました。ECBの関係者は、ドラギ総裁の演説を受けた市場の反応は行き過ぎ、との見方を示していますが、以降、欧州金利上昇に歯止めはかからず、金利上昇に伴ってユーロが大きく上昇しています。
また、英国の中央銀行も、6月の金融政策会合で利上げを主張した委員が増加したことで、年内の利上げ観測が浮上。カーニー総裁は「引き締め協議は時期尚早」としていましたが、6月28日のECBフォーラムで掌を返し、金融緩和の解除が必要となる可能性に言及しました。英国にも利上げ観測が広がったことで、英国債利回りが急上昇、ポンド高となっているのです。

またカナダ中央銀行総裁も、早期利上げの可能性を示唆しており、気が付けば緩和継続を頑なに維持しているのは日本だけ?!という状況に。日本銀行は2016年9月に導入した「イールドカーブコントロール」政策によって、長期金利をゼロ近傍に固定しているため、米国、欧州、英国といった緩和からの脱却に向かい始めた国の金利が上昇すれば、おのずと日本との金利差が拡大していきます。日銀が何もしなくても、日米、日欧、日英金利差が拡大することで「円安」が進行していく、という状況となっているのです。

ただし「テーパータントラム」の再来であれば、金利上昇に伴う癇癪は株式市場にも悪影響を及ぼす可能性があります。2013年、米金利が急騰したにもかかわらず、ドル/円相場が103円台から93円台へと10円もの円高となったのは、日経平均が大きな下落を強いられたためです。足元ではまだ株式市場は調整の範囲内の下落に留まっていますが、ドイツDAX、イギリスFTSE、そして米株市場では、特に上昇が際立っていたナスダック総合指数のチャートが、大きな調整入りを暗示するような形となってきています。もし、株式市場が大きく崩れ出せば、金利差による円安よりも、リスク回避による円高の圧力が大きくなる可能性も。2017年後半は、テーパータントラム再来となり、株式市場の下落が引き起こされるリスクに注意を払いつつ、市場が安定的に推移するようなら、日本との金融政策の方向の違いが際立つことで、円キャリートレード(円売り外貨買い)がトレンド化していくものと考えています。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

TwitterAccount
@hirokoFR

マネックスからのご留意事項

「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

マネックスメール登録・解除

コラム一覧