マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
豪ドルが上昇してきました。豪ドル/ドルは2015年からのレンジ上限だった0.78ドル台を力強く上抜け、2年ぶりの高値を更新。豪ドル/円も2016年の高値を超えて2015年の高値レベルに接近しています。
豪州は中国の減速で資源ブームが終息し、景気の停滞感が顕著となってきたことから、政策金利を段階的に引き下げ、金融を緩和的に運営してきました。2008年には7.25%もあった政策金利は、過去最低の1.5%まで引き下げられた状態が長く続いています。豪州準備銀行(RBA)が7月4日に開催した金融政策決定会合で、金利は10会合連続の据え置きとなります。市場は中国景気減速が、豪州の主要輸出品の鉄鉱石市況の下落をもたらしたことで、経済にも悪影響が及ぶとの認識で豪ドル売りを進めてきました。豪州の鉄鉱石輸出は同国輸出全体の約20%を占め、中国向けが最大です。
中国もまた、鉄鉱石資源が豊富で自国でも生産しています。
中国は減速する経済のテコ入れ策として大規模な財政支出を行い、交通網など公共インフラ投資の案件が増え鋼材需要が堅調となったことで、製鉄所の利ざやが大幅に改善。製鉄所が生産を増やしたことを背景に在庫が積み上がり、中国鉱山の鉄鉱石価格は損益分岐点とされる70ドルを下回ってきました。今後は中国は鉄鉱石生産を減らすと目されています。
しかしながら、全体では都市化政策を推進している中国は社会資本整備のための公共投資は拡大しており、鋼材需要も増大しています。需要の拡大の中での国内生産の抑制により需給が引き締まったことで、鋼材価格が上昇に転じており、これが鉄鉱石価格の追い風となっています。
足元で鉄鉱石価格が上昇してきたことが足元の豪ドル上昇の背景ですが、中国頼みの経済では、今後も中国の景気動向に豪州経済が大きく左右され続けることとなります。中国が再び景気減速懸念が出てくれば豪ドルは再び大きく売り込まれてしまうでしょうか。
2011年、中国政府がそれまでの成長拡大一辺倒だった戦略を修正し、持続可能な経済成長を目指す方針転換に切り替え、景気過熱を抑制したことから鉄鉱石価格の大幅な下落がスタートし、特に2015~2016年にかけては下落が大きくなりました。これに連れて豪ドルも売られたのですが、実はこの間、豪州は内需関連セクターの成長が支えとなり、一度もリセッション(景気後退)に陥ることなく比較的高い経済成長を保ってきました。鉱山バブル崩壊にも耐えうる豪州経済の活力は、豪州国債が最も信用力の高いAaaに格付される根拠でもあります。豪州は観光地としても大変魅力があり、豪ドル安は豪州の観光収入を拡大させた側面もあったのです。
また、豪州政府は今年5月、今後10年でインフラ整備に750億豪ドルを投じる計画を発表しました。目的はまさに、中国の減速で資源ブームが去った後の豪州経済を次の成長局面に導くことが狙いで、鉄道や滑走路、道路の構築に巨額の資金を投じることで、建設ピーク時には1万6,000人もの雇用創出を見込むものです。計画の目玉は、南東部のメルボルンから北東部沿岸のブリスベーンを結ぶ計1,700キロメートルの長距離鉄道網の整備ということで、スケールの大きな公共事業がこの先10年かけて行われるのです。こうした計画によって、豪州は資源価格に左右されることのない強い経済成長を手にするかもしれません。
とはいえ、もともと豪州経済は強いのです。17年1-3月期の豪州の実質GDP成長率は鈍化しましたが、今期もプラス成長であったことで、豪州は103四半期(25年9カ月)にわたり「景気後退」の定義である2四半期連続のマイナス成長を経験しておらず、景気拡大期間の長さは1980年代初頭から続いたオランダの最長記録に並びました。
足元では先週、RBAのデベル副総裁がアデレードでの講演テキストを公表したことで、豪ドルが若干の調整局面にはいっています。「他国が利上げを行っているからと言って、豪州が金利を引き上げなければいけないわけではない」「豪ドルの上昇は豪経済の支援とならず」「通貨の強さは経済の調整を混乱させる」という内容で、豪ドル上昇をけん制したものとみられます。しかし、先週は同時にブロックRBA総裁補佐が「シドニーやメルボルンなど住宅価格が急上昇している地区の動向にも注意」と発言しており、住宅価格上昇を警戒している側面も。カナダが7月に利上げしましたが、住宅市況の高騰が一因と指摘されています。足元ではRBAが急激な豪ドル高を抑制したいという思惑が豪ドルの調整を誘発していますが、中長期的なファンダメンタルを考慮すれば、豪ドルは押し目買いで買いに妙味あり、と考えています。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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