第105回 「エコカー」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第105回 「エコカー」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場は依然としてすっきりしない相場展開にあります。日経平均もまだ2万円を挟んだ動きを余儀なくされているのが実状と云えるでしょう。一方で、(日銀政策に変更はない中で)長期金利が一時1%を超えてくるなど、俄かに金利動向にも動きが出てきたように感じています。ボラ(ボラティリティ)の乏しい状態の中、相場はやや波乱の展開にシフトするリスクが出てきたのではないか、と筆者は警戒しています。

さて、今回取り上げるテーマは「エコカー」です。このテーマは過去に何度も触れていますが、先日飛び込んできたニュースを見て再度取り上げたいと思いました。思わず注目したそのニュースは、次の2つです。「インドでは、国内で販売する自動車を2030年までに電気自動車(EV)に限定する」、そして、「フランスでは、2040年までに内燃機関を動力とする自動車の販売・生産を禁止する」というニュースです。インドは6月に、フランスは7月に、それぞれ政府の発表でした。これが法制化された際には、両国ではガソリン車やディーゼル車は将来販売できなくなり、インドにおいてはハイブリッドカー(HV)でさえも消費者は購入できないということになります。既にエコカーに優遇制度を設けている国は少なくありませんが、国内販売にまで規制をかける試みは実に画期的と云えるでしょう。もちろん、同様の提案はドイツやオランダでも議会に提出されています。しかし、まだ政府が言及する段階に至っておらず、そういった点で明らかに仏・印のケースはより現実性の高い動きではないか、と考えられます。

加えて、フランスの発表では、(様々なしがらみが障害となる)先進国においてもここまで大胆な政策を打ち出してきたことに筆者は驚きました。フランスには世界的な自動車メーカーが複数存在しています。これまで培ってきた内燃技術やそれに関するノウハウは競争力の源泉であったはずですが、この政策はその競争力の低下に繋がりかねません。にもかかわらず、政府が踏み込んで言及したため、です。自動車部品や給油施設など裾野産業の規模の大きさを考えても、エコカーシフトの衝撃は相当に大きなものが予想されます。仏印ともにかなり過激な政策を表明したと云えるのではないでしょうか。しかも、米国が気候変動抑制に向けた多国間合意(パリ協定)から離脱を宣言するなど、地球温暖化に向けての取り組みに減速懸念が生じてきたタイミングです。両国の試みはその懸念を押し返し、延いては地球温暖化に危機感を持つ他国でも同様の政策実現を検討し始めるきっかけになるのでは、と考えます。

世界におけるエコカーの普及率は、2012年時点でおよそ3%といった試算が研究機関からなされています。2017年の現在でも10%前後というところなのではないか、と筆者は想像しています。しかし、北欧では新車販売に占めるエコカーの割合が(単月ですが)37%に達したという報道もあり、着実にエコカーは市場に浸透してきている様子がうかがえます。普及率がある一定ラインを越えれば、それを支えるインフラ(充電ステーションなど)の拡充も一気に広がっていくはずです。数年前まで、エコカーの選択は(インフラの不便や車種選択の制限を甘受したとしても)環境問題対策といった若干「理念的」な理由づけが主であったように思いますが、今や一般に普及できる土壌も整ってきているのかもしれません。

株式投資を考えると、自動車各社のエコカー戦略が重要となるのは当然ですが、筆者としてはむしろ大きなゲームチェンジの方に関心があります。ガソリン車に関しては、内燃機関に関するノウハウや、摺合せなどアナログ的な技術が高い参入障壁となり、新規参入企業は限定されていました。しかし、EVなどではその障壁がなくなるため、米テスラに代表されるような新規参入企業も少なくありません。今後、EVなどの普及加速が現実味を増すにしたがい、どんどん参入企業が増える公算は高く、これにより従来型の業界勢力図も大きく変化してくるのではないか、と期待します。ちょうど、ガラケーからスマホへの転換が携帯電話業界を一変させたように、です。さらに、前回のコラムでゴールドラッシュ時に一番儲けたのは金を発掘した人ではなく、スコップを売った人だという逸話をご紹介しました。これと同様、エコカーの普及が進むにしたがい、インフラ関連企業や自動車部品、電池、さらにはIoT関連といった周辺分野の需要はそれ以上の拡大を見せるのではないか、と予想します。世界初のHVであるプリウスが発売されて20年が経ちますが、話題・期待といった段階から遂に、普及の段階にシフトし始めたのではないか、と感じています。

コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

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