マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
ドル/円相場はすっかり108~114円のレンジで膠着。アベノミクス、日銀の黒田バズーカと呼ばれるサプライズによる円安もその勢いはすっかり失われており、かろうじてイールドカーブ・コントロールで日本の長期金利はゼロ近傍に固定されていることがサポートしている状況。日米の金融政策の方向性の違いから一定の金利差があることで110円前後を保っています。一方で、米国の金融政策における「利上げ」に反応してドル高になるというパターンは最初の利上げを実施した2015年12月で終了しています。足元ではトランプ政権への失望から、トランプラリーで大きくドルが買われた上げ幅を削る相場にシフトしており、ドル/円相場がレンジ内での下落基調にあることから、8月リスクに警戒が強まっています。
8月は円高になりやすいというアノマリー(合理的な説明ができない現象)はあまりにも有名です。過去27年を遡って検証するとドル/円相場は円安だったのはたった8回。19回円高だったということで円高確率は実におよそ71%。アノマリーとはいえ、8月は70%を超える確率で円高になりやすい事実を無視することはできません。
その背景には、8月15日の米国債の償還による資金返済と利払いが最も大きいためだという指摘があります。日本が米国債を買っていた場合の利息が米ドルで支払われるため、その利払いを円に替える際に起こる円買い圧力が一時的な円高に繋がるとの解説ですが、実際には償還分は再投資されるとか、現在では利払いの円転のボリュームは市場にインパクトを与えるほどではないなど、この説に否定的な見方も多くあるのが実情です。ただし、この時期は商いも閑散となるために投機的な仕掛けが入ると為替変動が大きくなりやすく、この時期を狙って円高へのアタックが出やすいため、楽観はできません。
また、71年のニクソン・ショック、90年のイラクのクウェート侵攻、97年アジア通貨危機、98年ロシア危機、07年仏パリバ・ショック、11年米国債務上限問題から米国債の格下げ...等々、何故か8月にはマーケットにインパクトを与える不吉なことが起ってきた経緯があり、8月を警戒する認識が強いことも心理的に「買うより、逃げろ」という投資行動に繋がっているともいえるでしょう。
今年8月も、アノマリー通りにこの円高に進むようなことが起こるとするならば、考えられるリスクは何でしょうか。
①北朝鮮問題
米国のヘイリー国連大使は30日、北朝鮮とつながりの深い中国への圧力が十分でないと非難する声明を発表。「対話の時は終わった。」とも発言しています。北朝鮮によるICBM発射を受け、米国が北朝鮮、中国に対しどのような制裁に出るのか、と身構えている状態で、リスクを積極的に取るセンチメントにありません。万が一の有事への発展、それがなくても経済制裁発動などに、マーケットが逆流する可能性を見込んで、オプション市場ではボラティリティ上昇にかける巨額取引が報じられ始めています。
②ジャクソンホール会合
ECBのドラギ総裁は、8月24日~26日に米ワイオミング州ジャクソンホールで開催されるカンザスシティー連銀主催の年次シンポジウムに出席することを表明しています。ドラギ総裁が出席するのは3年ぶり。市場はECBの債券購入プログラムに関する9月の決定について、手がかりが出てくる可能性を期待しており、期待値に見合う内容となるのか否かがユーロの動向を大きく占うものと思われます。ユーロがどちらかに大きく動けば、ドルも動きます。欧州金利が急上昇することがあれば、米国金利も連れて上昇することが予想され、株式市場への波及も懸念されます。
8月はアノマリー的に円高になりやすいというほかは、ジャクソンホール会合を超える大きなイベントはありません。北朝鮮問題に大きな動きがなければ小動きに終始し、レンジ相場が続く可能性も。仮に何かが起こって円高が進行しても、日米の金融政策の違いが意識される金融政策相場に回帰すれば、今年のレンジ相場の下限である108円台では支えられると思われます。急落があった場合に、どのように対処するのか。ということをあらかじめ決めておくという準備が重要な局面ですね。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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