第107回 「空き家問題」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第107回 「空き家問題」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。俄かに朝鮮半島は緊迫した状況となってきました。株式を含む金融市場もかなり神経質な展開となっています。現時点では一旦鎮静化したように見えますが、依然としてキナ臭い状況には変化がありません。この問題は今後も折に触れて市場の重石となっていくのではないか、と懸念しています。4-6月期のGDPは年率4%と、予想以上の数字となりましたが、当面は手放しで強気に臨める状況ではないように感じています。

さて、今回採り上げるテーマは「空き家問題」です。この問題はかなり一般に浸透認知されていると考えてよいでしょう。総務省の調査では、2013年現在で約820万戸が空き家となっており、全住戸に占める割合は13.5%であったとしています。実に、住戸の7.5軒に1軒は空き家、という計算です。以前から空き家は増加傾向にあったのですが、1990年代に空き家率が10%を突破し、空き家問題が顕在化してきました。空き家の増加が問題視されるのは、住環境の悪化にも繋がりかねず、治安面でのリスクも増してくるため、です。さらに、それらを管理・処分をするとしても、行政やインフラのコスト高に直結することにもなります。それが地域の新規流入者を阻害してしまえば、町は一気に活力を失ってしまう可能性もあります。現時点ではまだ問題が燻っている段階かもしれませんが、空き家問題はかなり深刻な問題と位置付けられるのです。そして残念ながら、今後は人口減少と相俟って空き家はさらに増加するとの観測がなされています。野村総合研究所では、2033年には空き家数が2,150万戸、空き家率は30%を超えると予測しています。そういった状況が現実のものとなれば、少なくない都市で荒廃が進行することにもなりかねません。空き家問題は、なんらかの対応が早急かつ切実に求められる社会問題でもあるのです。

しかし、問題の深刻さにもかかわらず、これまで株式市場で空き家問題が大きく注目されたことはまだありません。これはその解決策への道筋が見え難いため、と想像しています。実際、この問題に関しては依然として効果的な対策は発動しておらず、時間の経過に伴ってむしろ日々深刻さは増していると云えるでしょう。このことは、何がしか解決の糸口が見つかれば、その社会的意義のみならず、経済効果といった側面を含めて一気に注目度が高まる可能性を示唆しています。株式市場でも大きなテーマに躍り出る可能性もあるのではないでしょうか。そこで、なかなか現実的な解決策の予想は難しいのですが、テーマを先取りする形で、この問題の解決について頭の体操をしてみたいと思います。

そもそも空き家問題を解決するには、そこに人を住まわせるか、建替えて別の用途に供するか、更地化してしまうか、の3つしか選択肢は現実的にありません。このうち、建替えや更地化に関しては、そのための費用が新規にかかるなど、所有者に大きな負担が発生することになります。当然、所有者は急いで問題を解決する必然性を見出し難く、結果として問題は先送りがちとなってしまっています。加えて、空き家の所有者すら不明という物件も少なくない状況では、その効果も限定的と云わざるを得ません。一方、破格の賃料を設定して入居者を確保しようという動きも少なくはありませんが、建物の古さや生活基盤のない地域への移住などが重石となり、空き家の急増ベースとは比べるべくもないのが実態でしょう。解決策が依然として見当たらないというとの背景には、こういった現実が重く圧し掛かっているのです。

筆者は、この問題の解決には土地の流動化がまず不可欠と考えます。建替えや開発にせよ、あるいはリノベーションを行うにせよ、その空き家を活用したいという需要家を確保しなければなりません。そして、需要家が許容できる水準まで価格を調整する必要もあるでしょう。そのためには土地売買を活発化させ、取引のハードルを引下げることが重要になってくると予想するのです。かつてバブルの後も、塩漬けされた土地が公的資金の投入などにより流動化されたことが、構造的低迷から浮上する一因となりました。状況はもちろん当時とは異なりますが、土地の利用者を呼び込むという点に関しては全く同じです。既に優遇税の適用や市町村レベルでの対応強化などが報じられ始めていますが、バブルの後始末で発動したようなより大胆な流動化策こそが今後必須になってくると考えます。そして、それは空き家問題解決の糸口となり、株式市場がようやく反応を始めるきっかけになってくるものと予想します。その場合の関連業種としては、新たなビジネスアイデアで土地の有効活用に寄与する企業群に加え、金融機関なども要注目と位置付けます。

コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

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