マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
夏休みが終わり今週から日本の機関投資家らが本格的に戻ってきます。自動車などの輸出企業は、こうした長期休暇の際には「リーブオーダー」といって、ドル売り円買いの注文を置いておくことが多くあります。お盆時期は円高になりやすいアノマリーがありますがこの注文があるためにドルが上がりにくいという側面もあるでしょう。
為替市場で「輸出の売り」が上値を抑えたなどとニュースになることがありますね。この輸出の売りというのは、ドル/円相場でのドル売り円買いのことです。トヨタなどの輸出企業が海外で販売した商品を円に替える取引のことです。トヨタは日本の企業ですから、最終的には海外で稼いだお金は円に戻すことが多いということです。(欧州での利益を円に戻す場合の輸出の売りはユーロ/円になります)つまり、円高圧力となるわけですが、決算月にはこうした取引が増えることで円高圧力が高まる傾向にあるのです。日本企業は3月決算が主であるため、3月末以降四半期決算末となる6月末・9月末・12月末に輸出勢の売り圧力が高まる傾向が慣例です。例えば、トヨタはドル/円1円当たりの利益影響額は年間で400億円にも上ると試算されています。企業の想定為替レートと実際のドル/円レートの差というのは非常に大事なのです。できるだけドル高円安の時に、売りたい(円に替えたい)というのが輸出勢の本音です。
トヨタの今期の想定為替レートは1ドル=105円(前期は108円)ですが、足元のドル/円相場は108円まで円高ドル安が進行中。なるべく想定より高いレートで売りたい輸出勢にとってはなかなか売るチャンスがないのが実情でしょう。長期夏休みに入る前、輸出勢は「リーブオーダー」というドル売り円買い注文を置くのですが、こうした注文がずらりと並んでドル/円相場の上値を抑えてしまうために、お盆中はドル高になりにくく、この慣習を知る海外勢らがお盆期間中に仕掛けようとするならば円高方向へのアタックということになるわけです。
輸出のリーブオーダーがあるならば、輸入勢によるドル買いのリーブオーダーがドル/円相場の下値を支えることはないのでしょうか。日本の場合、主に輸入というのは石油や電気、ガスなどの事業者を指します。3月11日の震災の後に猛烈な円安となった背景には、原発が止まったことで、海外から原油やLNGを買わなくてはならなくなったため輸入が劇的に増えた結果でもありました。エネルギーを輸入するためにはドルを買わなくてはならないため、為替市場ではドル/円相場の上昇につながったのです。
実は、輸入勢はこの時期に製造業のようにラインを止めて休むということがありません。石油や電気、ガスなどの業界は、製造業とは休みの取り方が違うため、この時期にリーブオーダーという形で注文を並べることがないのです。この時期、円高になりやすいワケですね。
今年もお盆休暇時期に様々なニュースが流れ、トランプ政権のリスク要因がドル安を誘引し円高を加速させたようにも見えますが、実際にはこうした需給によるカレンダー的な要素も背景にあっての動きです。お盆明けの特徴としては、輸出勢のリーブオーダーがHITせずに(ドル売り円買いができず)休みが明けてしまった場合、休み明けからは、売りオーダー水準が切り下がってくる可能性も。企業にとって必要な円を調達できなければ、為替部門の担当者の責任になります。一部報道によればこの休み期間中は111円台にリーブオーダーが並んでいたとされていますが、この休み期間中に111円台には到達できていません。つまりほとんど売れなかったと思われます。6月の日銀短観では大企業の想定為替レートは1ドル=108.31円ですが、お盆期間中には108円台へと下落したドル/円相場。108円より円高となれば想定を超える円高となりますので、そうならぬうちにと、慌てて輸出勢からの売りが出てくる可能性もありますので、短期的にはドル/円相場の一段安に注意が必要です。
※個人的には、今週ドル/円の下落があればあく抜けで、ドル高方向に転換すると見ているのですが、、、その理由はまた次回以降に。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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