マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
すっかり有名になってしまった中国の大気汚染ですが、北京で見る限り、数年前に日本で頻繁に報道されたような極端に酷いものは見られなくなりました。
それでも、日本では起こりえない水準での汚染は恒常的に発生しており、さらにここ数年は、以前であれば北部のものであった高水準の汚染が、中部から香港などの南部にまで広がっています。中国全体として見ると、問題は拡散し、かつ悪化しつつあるように見えます。
各地方政府は、自動車の排ガス規制の強化や、工場から排出される物質の管理強化など対策を講じていますが、経済発展の遅れが目立つ内陸部などでは、生産第一との考えが根強く、環境問題に対する意識がまだまだ不足しています。
また、2008年の北京オリンピックの際に、北京市内から隣接する河北省などに工場の一大移転が行われたのですが、汚染源を押し付けられた形になっているこれらの地域では、北京市に対する不満が高まっていると言われ、地方政府間で責任の押し付け合いが起こっています。
大気汚染が長期間続くことで、最も懸念されることは市民の健康への影響です。呼吸器に悪い影響があることは容易に想像され、実際に北京などの大病院には、冬場を中心に喘息など呼吸器疾患に苦しむ子供たちが数多く訪れています。
このほど、上海の有力大学である復旦大学の公共衛生学院が中心となり、大気汚染物質PM2.5が人体に与える影響に関する研究が行われました。
PM2.5にさらされることで、ストレスを誘発するホルモンの分泌が高まり、循環器系に様々な悪影響をもたらすほか、血中の脂質、ブドウ糖やアミノ酸の構成にも影響を及ぼしているとの結果が得られたそうです。
調査は、上海の健康な大学生55名を対象に、寮の部屋に空気清浄機とその偽物を無作為に置き、生活した後に健康状態を調べる方法により行われました。何となく人体実験のような感じもしてしまいます。
高いレベルのPM2.5にさらされた被験者では、ストレス性ホルモンの分泌が高まり、血圧上昇や興奮などの症状が見られた一方、空気清浄機の使用により、症状が治まることも確認されました。
研究を主導した復旦大学の教授は、ストレス性ホルモンの分泌が循環器に与える影響が大きいこと、また室内での空気清浄機の使用が効果的であることが今回の発見であると述べています。
「大気汚染が呼吸器に悪影響」と言われれば、空気清浄機の使用や外出時のマスク着用など、できる限りの対策を取り、また健康診断を確実に受けるなど対処のしようがありますが、循環器や血中脂質などにも影響があるということですと、さらに心配が募るところです。
一方で、中国の都市部住民の寿命は年々伸びており、日本には及ばないものの、都市部に限定すれば、既に長寿国の仲間入りを果たしています。空気、水、食品など様々不安がある中での結果ですので、「大したもの」と考えることもできます。
中華料理が野菜を多く用いる一方、乳製品の使用がほぼ皆無であることや、「医食同源」で食材や調味料にも漢方薬の成分が用いられることなどが長寿に寄与しているのかもしれません。
結局のところ、大気汚染のみに注意を払っていても効果は無く、食生活や睡眠などを含め、生活全般の中で健康を維持する努力が必要と言うことなのでしょう。
改めて大気汚染が健康にもたらす悪影響について認識させられ、また日常生活の全てにおいて、注意が必要と再確認したニュースでした。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト
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