第108回 「人余り」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第108回 「人余り」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。日経平均株価は再び2万円を割り込み、日々上値が重くなる状況となってきました。比較的好調だった中小型株のパフォーマンスも、ここにきてやや一服感が出始めたようです。朝鮮半島情勢の緊張化、日本政府の求心力低下観測、米国政府の混乱などが株式市場の重石となり、どうも相場のトレンドは調整色が増してきたように感じています。特に、朝鮮半島情勢は目に見える危機として定着してきた感は否めず、こういった政治要因が株価に大きく影響を与える傾向はまだ継続するように予想しています。

さて、今回採り上げるテーマは「人余り」です。最近、こんな報道がありました。記事によると、2020年代に再び人余りの時代が来るのでは、というのです。現在は人手不足が深刻化しており、有効求人倍率に至っては43年ぶりの1.5にまで上昇していることは周知の通りです。そして、少子高齢化が着実に進む中、今後も人手不足は慢性的に継続するのだろう、というのが一般的な認識なのではないでしょうか。そういった「常識」と照らし合わせれば、近い将来に人余りの時代が再来するというこの報道は、思わず目を止めるインパクトがありました。株式市場では、人手不足をテーマに既に省力化やAI化といった関連銘柄が注目を集めています。しかし、そう遠くない未来に人余りとなれば、このシナリオも変わってくるのかもしれません。ここでは、その予想外の展開について、考えてみたいと思います。

今回の報道の骨子は、画期的な省人化が急速に進行すれば、その影響を受ける職種ではむしろ人余りが生じてくる、というものでした。かつては生産現場における機械(ロボット)の導入などが省人化の中心でしたが、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの活用により、その省人化適用範囲は生産現場にとどまらず管理分野にも急拡大しています。一刻も早く人手不足問題を緩和させたい企業が積極的にそういった省人化を進めるのは当然のことですが、その結果、様々な領域で予想以上に省人化が進んでしまい、マクロ的には人が余ってしまうという予想です。省人化が行き過ぎてしまう、という捉え方でもよいかもしれません。実際、そういった「オーバーシュート」は現実の経済では往々にして起こる現象でもあります。少子高齢化の流れに変化はないとしても、人余り局面が一時的に発生する可能性は十分あるはずです。むしろ、そういった「揺り戻し」を繰り返すことで、業種・職種間の労働人口の需給調整が進んでいくというのが現実的な流れと云えるでしょう。新聞の見出しはやや突飛なように見えますが、次のフェーズに備えるという観点からは非常に重要な指摘と位置づけます。

では、株式投資を考えるうえでは、そういった揺り戻しをどう捉えるべきでしょうか。まず予想されるのは、人余りの中でも機能するような付加価値のある人材の輩出システムの需要です。端的には、人材研修や職業訓練といった教育産業がその主役になるのではないかと考えます。そういった人材の供給基地となる派遣・紹介産業もまた要注目でしょう。しかし、筆者がより注目するのは、介護サービス産業です。現在、この分野は人手不足が最も深刻であり、需要の急拡大に対して十分なサービスが供給できていない状況にあります。厳しい労働環境が人手不足の原因の一つとされており、業界各社は懸命な省人化投資などでその負担軽減を図っている途上というのが現状でしょう。そういったところに人手不足感が緩和してくれば、その効果は大きなものが期待できるのではないでしょうか。具体的には、労働環境の改善により労働者側にこの職種選択のハードルが下がったところに、人余りが顕在化してくるのです。そして、ある程度の人員数を確保できるようになれば、省人化効果も加わり、被介護者に対してもより高品質の介護サービスを提供できるようになるでしょう。楽観的な見方は禁物ながら、需要拡大が続く介護サービス産業には相当の追い風になるのでは、と予想します。

以前に人工知能をテーマにした時にも指摘しましたが、ここで懸念される「人余り」現象は、実は(AIやIoTで)人間の活躍できる余地が今後は着実に縮小してしまうという予測とほぼ合致します。そしてその時のコラムでは、それでも「感動を与える産業」は人間が引き続き活躍できる(活躍しなければならない)分野ではないか、と結論付けました。患者の気持ちに寄り添う必要のある介護サービス産業は、まさにその「感動を与える産業」の一つなのではないか、と筆者は考えています。

コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

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