マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
ポンドが急伸しています。2016年の国民投票で英国はEUを離脱することを選択。金融業が単一市場内で自由に営業が行えるように1996年に導入された「単一パスポート制度」からの離脱をも意味するブレグジット。すでに米モルガン・スタンレーや米シティグループ、野村ホールディングスなどが、ロンドンからフランクフルトへと拠点を移すことを決めたと報じられており、英国ロンドンが欧州における金融ハブとしての機能を失うことへの懸念が、経済の先行きに暗雲と見られてきました。英国の金融機関の従事者は220万人弱、そのうち70万人がロンドンで働いているとされており、金融業は国内総生産(GDP)の12%を占めるとの試算もあるほどです。
しかし、ブレグジット交渉は難航。EU委員会は「Brexit bill」と呼ばれるいわゆる「離脱金」600億ユーロ(約7兆2,634億円)を英国側に請求、離脱交渉開始前に支払いに同意するよう求めていますが、交渉はまとまっていません。
こうした背景から通貨ポンドには弱気が台頭。英景気の先行きへの懸念からポンドは弱含みの展開が続いていたのですが、通貨市場は景気の先行きより、金利引き上げの可能性に大きく反応しポンドの買戻しに動いています。
先週は英国の中央銀行(BOE)の金融政策委員会(MPC)が開催され、政策金利は据え置かれたものの、議事録要旨の内容が「過半数のメンバーは景気と物価が均衡点に近づくにつれ、今後数ヶ月で金融刺激策の一部撤回が適切になる可能性があると判断した」と利上げに向けて一段と強い表現に踏み込むものとなりました。カーニー総裁は14日のMPC終了後、自分も近く金融緩和の縮小が必要になると考えたMPC内の過半数の1人だったと明らかにしたほか、15日にはブリハ委員が「今後数ヶ月以内に」利上げが必要との見解を示したことが、ポンド上昇に拍車をかける展開へ。
にわかにタカ派(利上げ派)の勢いが増した背景には、英国の物価上昇への警戒が強まってきたことが挙げられます。9月12日に発表された8月の英消費者物価指数(CPI)の上昇率は前年同月比2.9%と、7月の2.6%上昇から加速し、約4年ぶりの高さとなりました。議事要旨では、ポンド安による輸入物価の上昇のCPIへの波及が一段と強まる可能性があるとして「10月に3%を上回る」としています。
英国のインフレターゲットは、CPI上昇率が前年度比2%ですが、±1ポイントを超えた場合には、BOE総裁が財務相に公開書簡を提出し、インフレターゲットからの乖離の理由や対応策を説明しなくてはならないという決まりがあります。8月のCPIは2.9%ですから、あと0.1%物価が上昇すると、この公開書簡を提出しなくてはならないということになります。そうなれば、BOEとしてはインフレを抑えるために利上げを止む無し、ということに...。
それでも今回9月のMPC会合では、利上げ派より据え置き派が多数であったことから、現実の利上げが見送られたわけですが、ハト派(据え置き派)は、ポンド安が一巡した後も物価上昇が続くかどうかは不透明であり、難航するEUとのブレグジット交渉に不透明感が漂う環境では今後英国への投資が減少することを懸念しています。
しかしながら、これまであまりにポンドの先行きには弱気が台頭していました。通貨先物市場ではポンド売りポジションが積みあがっており、今回のMPCサプライズでポンドの売りが買戻される「ショートカバー」がポンドを押し上げたものと思われます。まだまだ、今後の英国の利上げを織り込んだとは考えにくく、2017年年末に向けては一層のポンド上昇が予想される流れとなっています。ただし、足元では急伸した反動で調整安となる場面もあるかと思いますので、高値を追いかけて買わずに、押し目を十分に引き付けて。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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