第1回:とにかくフェアなサービスを作りたい【野水瑛介が目指す「資産運用のあたりまえ」】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第1回:とにかくフェアなサービスを作りたい【野水瑛介が目指す「資産運用のあたりまえ」】

<98%は「不適格」商品>

2018年1月よりNISAの積立投資版である「つみたてNISA」が始まります。国民の長期資産形成を促進するために、期間は20年、年間40万円(毎月約3.3万円)まで非課税で投資できる制度です。つみたてNISAで投資できる商品については、金融庁が長期資産形成にマッチする選定基準を細かく規定しています。この基準を、2017年4月の時点で国内で販売されている6000本近い公募株式投信に当てはめてみると、驚くべきことに全体の1%にも満たない約50本しか基準を満たす商品がありませんでした。その後、各運用会社がつみたてNISAに対応するため、手数料の引き下げや新商品開発などを進めた結果、8月末時点では何とか120本まで増えましたが、それでも全体の2%程度です。逆に言うと、国内で販売されている投信のおよそ98%は長期資産形成に向いていないということになります。

<「主人公は個人である」>

98%も「不適格」な商品を製造・販売する業界など常識では考えられませんし、製造業だったらたちまち倒産してしまうでしょう。しかし、資産運用業界では、商品の供給側である金融機関が自らの収益を最大化させようと行動し、商品を買う側である個人投資家が求めてきたのは「投機」であって必ずしも「資産形成」ではなかったため成立してきたのです。この結果が98%の不適格商品でした。

このままでは日本の資産運用業界に未来はありません。今必要なことは、個人投資家を中心に据え、長期資産形成に適合したサービスを開発して長期資産形成の重要性を訴え続けることです。私はユーザーに対して、自分たちにとって都合が悪いこともしっかり開示する姿勢こそが「フェアなサービス」だと考えています。ユーザーファースト、ユーザーセントラルだとビジネスとして儲からないのではないかという意見も耳にしますが、これからの時代はユーザーセントラルでかつ供給側が儲かることを両立させたサービスのみが生き残っていけると思います。

<現状は販売会社が中心>

残念ながら、これまでの日本における資産運用サービスは「アンフェア」と言わざるをえません。中心に座っているのは、個人投資家ではなく販売会社(売り手)です。すべては売り手の論理で作られているといっても過言ではありません。売り手の収益の柱は、取引や販売の度に発生する手数料(コミッション)をいかに積み上げるかです。運用残高に一定料率をかけた取り分(フィー)もありますが、コミッションのほうが大抵の場合は料率が分厚いのです。コミッションを稼ぐために、個人に何度も取引させる(回転売買)、そして少しでも手数料が高い商品(アクティブ型投信など)を売る。そうした強いインセンティブが売り手にはあります。しかし買い手にとっては、コミッションはコストなので、パフォーマンス(リターン)を悪化させる原因の1つになります。売り手と買い手である個人の利益は一致していないという不都合な真実があるのです。

<個人投資家にも問題が>

開発・販売すべき商品は実は極めてシンプルです。「大切な人に薦められるサービス」であれば良いのです。現状の金融業界で嘘偽りなく大切な人に薦められるサービスを開発していると自負できる人はいったいどれだけいるでしょう。正直なところ、私は大切な人だけには薦めたくないと思う商品を作ってきました。
売る側にも問題がありますが、資産運用(資産形成)と「投機」が混同されている日本の現状も大いに問題があると思います。FX取引、ダブルブル/ベア投信、ビットコインが大流行りする国です。短期的な儲けを狙う投機的な行為は趣味としては刺激的で面白いですが、こうした投機的行動は資産運用には明らかに向いていません。投資セミナーで良く出る質問は「どの銘柄が短期的に儲かりそうか?」、「いつ買うのがいいか? いつ売るのがいいか?」です。日本には本当の意味での資産運用ニーズがまだまだ根付いていないことを痛感します。

しかしそうのんびりは構えていられません。日本の先行きが不透明な経済・財政状況、本格的な少子高齢化社会の到来を鑑みると、一刻も早く個人を主人公とした「大切な人に薦められる」フェアな資産運用サービスを日本に根付かせる必要があるのです。

<筆者プロフィール>

野水瑛介(のみず・えいすけ)

1986年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、JPモルガン・アセット・マネジメントに入社。銀行や証券会社を担当する投資信託営業に従事。その後ロンドンオフィスに駐在しジャパンデスクとして東京オフィスとのリエゾン業務を担当。帰国後、当時最年少でチームマネージャーに就任。2016年2月にマネックス・セゾン・バンガード投資顧問に参画。オンライン投資一任運用サービス「MSV LIFE(マネックス証券での愛称:マネラップ)」https://www.msvlife.jp の開発責任者に就任し、2016年9月17日にサービスをリリース。「ゴールベースアプローチ」に基づき、「資産運用のあたりまえをあたりまえに」するべく、執筆や講演活動を展開中。

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