マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。これまでの停滞がウソのように、先週の日経平均株価は一気に2万円台を回復し、2015年5月ぶりの高値をつけることになりました。朝鮮半島情勢の不安定さはむしろ増している状況ですが、米国FRBの資産圧縮着手や俄かに吹き始めた衆議院の解散観測が相場の雰囲気を一変させた格好です。このコラムでもかつて採り上げましたが、解散は基本的に株価上昇要因であり、まさにその定石通りの相場展開になったと云えるでしょう。引き続き、選挙戦が一巡するまで株式市場はかなり楽観的な展開になるのではないか、と予想しています。
さて、今回採り上げるテーマは「ESG」です。ESGとは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字で、企業が持続可能な成長を実現するために必要とされる3つの観点を示したものです。調査機関によると、ESGが充実している企業の株価は、それ以外と比べ高いパフォーマンスにあるとの分析もなされています。こういった傾向を受け、最近では投資判断基準に、このESGの視点を加える機関投資家も増えて来ました。これらはESG投資(ESGを投資判断根拠に組み入れた投資スタイル)と云われ、それに特化したファンドなども組成され始めています。実際、企業側が公開している決算説明資料などでは、定量的な財務報告に加えてESGの観点を盛り込んだ「非財務情報」も併せて提示されているケースが今や少なくなく、これらはすべての投資家にとって重要な投資判断材料となっています。このコラムの読者でも、ESGを投資判断の参考にしている方もおられるのではないでしょうか。
ただし、その一方として、企業側ではとにかく「ESG的な非財務情報を出せばよいのだろう」、「ESGに言及すれば、株式市場から高い評価を得ることができる」といった、筆者からすればやや短絡的かつ近視眼的なアプローチも散見されるようになりました。機関投資家サイドでも、非財務情報の中身の検討よりも非財務情報の存在の有無、あるいは情報項目の多寡でスクリーニングするというケースが発生しています。これらは、本来の趣旨とはどうも異なる動きと云わざるを得ず、企業側も投資家サイドもまずはESGに関して体裁(あるいは調査しているという体裁)を整えることが優先されているように思えてなりません。もちろん、ESGをしっかりと捉えている企業や投資家も少なくありませんが、現時点ではまだまだその段階に至っていないケースも多いというのもまた現実と云えるでしょう。
そもそも、ESG(開示)といった体裁を取るかどうかにかかわらず、企業が長期的な成長を遂げるにはESG的要素を経営に取り込んでいくことは必然とも言えます。したがって、ESGに関する開示がないからといって、その企業がESGに全く取り組んでいないということは考え難く、また、ESG開示があっても本当にそれが機能しているかどうかはよくわからないはずなのです。(企業側が)機械的にESGの体裁を整えよう、あるいは(機関投資家側が)機械的に評価しようという動きがあまり本質的でない、と考えるのはそのためです。もっと懸念すべき点は、こういった機械的対応を以て、ESG投資への対応が進んでいると企業も投資家も認識してしまう点でしょう。非財務情報という言葉が端的に示している通り、数字で推し量れない内容、換言すれば、機械的に評価できないような内容をしっかり吟味することにこそ、ESG投資の真髄があるように筆者は考えます。
同様に、ESG充実企業は株価パフォーマンスがよいという指摘も、要注意と考えます。本来、株価を決定づけるのは株主の利益、つまり業績動向です。そして、業績を決定づけるのが競争力や経営力ということになります。ESGはあくまでそれを実現するための手段の一つであり、それを設定して開示するだけで業績が良くなるはずはないのです。それでも株価パフォーマンスが優れているのは、つまり元々業績がよかった企業がESG開示を充実させていたのだ、と考えるのがむしろ自然でしょう。もちろん、その好業績の背景にはESGの取り組みが寄与しているということなのでしょうが、それは業績を支える一つの要因に過ぎません。ESGの充実した開示を原因に、株価が好パフォーマンスするという結果をもたらすという構図は厳密には成立しないのです。あくまでESG開示は「株価パフォーマンスのよい企業」の十分条件の一つであり、必要条件ではありません(ESGそのものではなく、ESG開示であることにご注意ください)。是非とも、ESG開示万能主義的な視点で企業や投資を捉えることのないよう、このコラムの読者の皆様には問題提起をしておきたいところです。そういった状況を考えると、まだまだESG投資は黎明期の域を出ていないと云えるのかもしれません。
コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)
日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。
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