第278回 機関投資家のヘッジ外しって何?!ドル/円の下支え要因【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第278回 機関投資家のヘッジ外しって何?!ドル/円の下支え要因【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

9月前半、北朝鮮の挑発に高まる緊張と米国を襲ったハリケーン被害、なかなか予算策定できないトランプ政権への失望と先行きへの不安などから、ドル/円相場は107円台にまで円高ドル安が進行。市場には105円、100円といった円高見通しが渦巻きましたが、足元では112円台を回復するところまで急激にドル/円相場が上昇しています。9月9日北朝鮮の建国記念日にミサイル発射がなかったこと、米国の債務上限問題が12月8日まで延長され足元のリスクではなくなったこと、9月FOMCで米国の年内追加利上げが再燃したこと、さらに、日本の早期解散総選挙の実施がほぼ確実となったことでアベノミクス再始動への期待が高まったことなどが報じられていますが、為替市場の需給面からは「機関投資家のヘッジ外し」が出ていることが関係者の間では話題となっています。

ヘッジ外しとはどういうことでしょうか。

日銀は2016年1月にマイナス金利を導入。その後、日本の国債市場では、10年ゾーンまでの利回りが一時マイナス圏に落ち込むなど日本国債の利回りは低下。影響が大きく出たため日銀は同年9月にイールドカーブ・コントロール政策を打ち出し10年債利回りを0%近傍に固定することを明言。以降、日本の長期国債は0%近傍の金利で推移しています。これでは機関投資家(年金や保険会社など)は、日本国債に資金を置いてもほとんど利益が出せません。米国の長期債利回りはトランプ大統領誕生以降2%台へ上昇。豪州債は現在2.8%近辺で推移。ゼロ金利の日本国債から利回り収益が期待できる外債へ投資のシフトが迫られる環境となってしまいました。

機関投資家が外債投資する場合、米国債を買うなら資金を米ドルに替えて投資しなくてはなりません。しかし、為替市場ではマイナス金利導入を最後にドル高円安のトレンドが崩壊。アベノミクスへの期待もしぼみ、日銀の金融政策への限界論などから円高への警戒が強まっていました。(特に2016年は6月に英国のEU離脱が円高を誘発し98円まで円高に)米国大統領選挙前は、ドル/円相場は100~105円台でのレンジ相場で膠着。このころに、機関投資家らは外債投資を積極展開。米ドルで外債投資すれば、円高となると為替分が損失になってしまいます。そこで為替のキャピタルロスを避けるために、機関投資家らが行ったのが「為替ヘッジ」。外債投資するために調達する米ドルと同数量の「円」を為替市場で買うことで(ドル/円の売りポジションを持つ)為替変動によるリスクを回避することができます。これで、どんなに円高となっても外債投資での利回りだけを追求することができる、というわけです。

しかしながら、その後に起こったことは悲劇でした。米国大統領選挙でトランプ大統領が誕生。トランプ大統領となれば株は売られ円高進行となると展望していた向きが多かったのですが結果は真逆でした。株は大きく上昇。ドル/円相場はなんと118円まで一気にドル高円安進行となったのです。

思惑と違う方向に為替相場が動いたことで、機関投資家は為替ヘッジした分のドル/円ショートポジションで大きな損失が出る羽目に。また、米国債利回りもトランプ大統領誕生以前は1.5%前後で推移していたのですが政策期待で2.6%まで急上昇。これは機関投資家らが米国債を購入した時点では米国債価格が非常に高かったのに(低金利=国債価格高)、トランプ大統領誕生によってもたらされた金利の急騰で、米国債価格が急落してしまったことを意味しています。機関投資家らは思惑と異なる為替変動で損が拡大しただけでなく、外債投資でも損失を拡大する結果となってしまったのです。

このポジションは118円台にまで円安ドル高となってもそのまま継続されていました。(損切しなかった)ところが最近になって、機関投資家らがヘッジ外しを積極展開している、というのです。101~105円台でのドル/円の売りを、118円まで上昇した時には動かさず、110円を割れてくる円高進行となってきた時に、損失計上覚悟でドル/円の売りを解消しているということ。これが「ヘッジ外し」です。機関投資家らのこうした行動は、彼らが105円以下の円高再来は望めないと予想しているということであり、為替市場ではドル/円ショートの反対売買が起きることでドル買い円売りの圧力が増しているということです。これが足元でのドル/円相場の強力な下支え要因となっているとみられます。

また機関投資家はヘッジなしでの外債投資に踏み切っており、これは、そのまま投資先となる国の通貨高要因となります。米債投資が増えているようなら米ドル高、欧州債投資が増えているならユーロ高です。ヘッジをつければその圧力はゼロとなりますが、現在はヘッジを外し、さらに新規でヘッジなしでの外債投資に踏み切っているということですから、ここからはドル/円、クロス円での円安圧力が増していくものと考えています。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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