第110回 「IPO(Initial Public Offering)株投資」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第110回 「IPO(Initial Public Offering)株投資」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。先週、安倍首相は衆議院を解散し、本格的な選挙戦が始まりました。この局面での総選挙は、アベノミクスの成果についての信任を問うものであり、また安全保障に関しての方針を問うものになるのではないでしょうか。結果はまだ予断を許しませんが、株式相場的には基本的に解散・総選挙は「買い」でした。今回もその傾向が踏襲されるのではないかと予想しています。

さて、今回採り上げるテーマは「IPO(Initial Public Offering)株投資」です。IPO株とは新規公開株のことで、現在ではIPOという略称も一般に使われるようになってきました。通常、IPO株投資とは、公募株式を証券会社から取得し、その株式が上場した後に市場で売却して値上がり益を確保するという手法を指します。上場株価は公募価格を上回る可能性が高いということで、こういった投資手法が定着しているのです。ただし、IPO株全てにそういった手法が通用するわけではなく、上場株価が公募価格割れになるというケースも少なくなく、やはり銘柄の見極めが重要となることは言うまでもありません。ちなみに、2017年はこれまでおよそ60社の新規公開がなされており、通年では概ね90社程度になるのでは、といった観測もあります。新規公開社数は、リーマンショック直後は年間20社程度にまで落ち込みましたが、アベノミクス相場が本格化した2014年以降は、年間80社を超える活況を呈しています。2017年においては、これまで9割程度の新規公開株で上場初値が公募価格を上回っています(2008年は実に4割弱でした)。IPO株投資は、高い確率で機能していると云えるのではないでしょうか。

ではなぜ、上場後の株価は公募価格を上回るケースが多いのでしょうか。これは、公募価格は証券会社がその株式を売り切るために比較的「割安」な水準に設定されている場合が多いため、です。通常、上場する企業側はできるだけ多くの資金調達を行うために、この公募価格を高めに設定したいと考えます(創業者の利益拡大にも直結します)。しかし、公募株の売れ残りはそのまま証券会社のリスクになってしまううえ、その場合は上場後の株価低迷も容易に予想されることになってしまいます。企業としてもそういった事態は避けたいはずで、公募価格はそういった思惑のせめぎ合いの結果でもあるのです。

一方、公募価格が高く、結果として上場後もずっと「公募価格割れ」という状況が続いている企業(銘柄)も存在しています。やはり投資家としてはそういった銘柄の選択を何とか避けたいというのが本音でしょう。こういった不幸な結果となってしまったのには様々な理由があるのでしょうが、ここではそのリスクを抑制するためのポイントをいくつかまとめておきましょう。なお、言わずもがなですが、公募価格そのものに割高感がないことは前提条件です。具体的には、レンジで公開されている仮条件と比較してその下限に近い水準での公募価格となると、それだけその企業に対して慎重な見方が多いということを示唆している可能性があります。公募価格は仮条件内において投資家からの需要申告によって決められるのですが、下限に近いということは需要が低い(魅力に思う投資家が少ない)ということでもあるため、です。

筆者は、当該会社のキャッシュフローと投資計画に注目しています。上場後に株価が上昇するためには、企業は成長拡大に向けての投資を積極的に投じて行く必要があります。上場によって調達した資金をしっかり成長投資に振り向けられているかどうか、が重要と考えるのです。かといって、余ったお金を全く関係のない分野への無謀な投資に回す企業も困りものです。そこで、本来の事業がどれだけお金を必要としているか、を見極めるために、キャッシュフローと投資計画が役立つのです。そもそも急成長している企業は運転資金(在庫調達や能力拡大、人員拡張など)が急速に膨れ上がるため、手元の資金が薄くなってしまいがちです。そういった企業は、上場でまとまった資金をこれらに充当し、次なる成長に繋げていく公算は大きいのでは、と予想するのです。

換言すれば、そういった資金需要もないのに上場した企業は、持て余した資金を無駄に使ってしまうリスクが大きいと云えるでしょう。実際、筆者がお会いした新規公開企業の経営者の中には、堂々と「上場ゴール」(本来は成長のための手段である上場を、むしろ創業者などの利益確保のための目的とする現象)の意図を公言した方もおられました(武士の情けでその社名は伏せます)。市場から資金を調達して「公開企業」になることへの自覚もリテラシーもない企業を上場させる証券会社にも問題はありますが、投資家としてもそういった企業をしっかり選別していくことを意識したいところです。

コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

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