第112回 「アベノミクス3.0」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第112回 「アベノミクス3.0」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。日経平均は戦後最長となる16連騰を達成しました。この間の上昇幅は実におよそ1,450円です。市場には勢いが感じられ、一時は10月いっぱい負けなし(下落日なし)もあり得るのでは、といった軽口も叩かれるほどでした。日経平均も遂に22,000円にヒットし、バブル崩壊後の最高値(22,666円)にもあと600円強というところにまで接近し、まさにバブルの清算が間近に迫ってきた印象です。ただし、米トランプ大統領のアジア歴訪次第では朝鮮半島情勢の懸念が再び台頭してくる可能性も否めません。ここからしばらく神経質な相場展開になるのでは、と予想しています。

さて、今回は「アベノミクス3.0」をテーマに採り上げたいと思います。アベノミクスにバージョンナンバーがつけられて、語られるケースはこれまでほぼありませんが、ここでは便宜上、3.0としてそれまでのアベノミクスを区別して議論をしてみたいと思います。一般にアベノミクスとは、自民党が政権に復帰して発足した第二次安倍内閣(2012年末~)において提唱されたものを指します(正確には第一次安倍内閣でもそういった表現がなされた時もありました)。三本の矢を軸にデフレ経済からの脱却を狙った経済政策で、株式市場もその政策を好感して大きく上昇したことは記憶に新しいところです。これを便宜上アベノミクス1.0と定義しましょう。次いで、第三次安倍内閣時(改造内閣2015年~)に新三本の矢を擁して「一億総活躍社会」を掲げたアベノミクス第2ステージをバージョン2.0、そして、今回の総選挙を経て組閣される第四次安倍内閣で「再起動」が謳われるであろうアベノミクスがバージョン3.0というわけです。

残念ながら、アベノミクス2.0は、その前の1.0に比べて株式市場からの評価はそれほど高いものではありませんでした。2014年の消費増税が重石となって景気に失速感が蔓延しつつあったところでもあり、働き方へ改革の目玉をシフトさせるよりも、バージョン1.0を強化してデフレからの脱却・景気浮揚に最注力すべき、というのが株価式市場の見方であったように筆者は感じています。実際、この間は株式市場もまた停滞局面となっていました。アベノミクスはバージョン1.0とい2.0では明暗が分かれ、時代のニーズにマッチした政策を繰り出し、高い市場の評価を得たバージョン1.0に対し、2.0は消費増税という特殊要因はあったものの、目玉の設定のズレがむしろ目立った経済政策であったと云えるでしょう。

既に安倍首相は年内をメドにアベノミクスを再起動させる意向を明らかにしています。現時点でその具体案は明らかにされていませんが、教育無償化や2019年に予定されている消費増税の使途変更などがその骨格になるのでは、という観測もなされています。このバージョン3.0が、1.0型となるのか、2.0型となるのか、株式市場の注目度も今後高まることになるでしょう。ただし、株式市場は実に16連騰と、戦後以来最長の連勝を記録しています。株式市場は早くも、このバージョン3.0がバージョン1.0に匹敵する内容になるのではないか、という期待を織り込み始めた可能性は認識しておくべきでしょう。

では、どういった内容であれば、株式市場が好感したバージョン1.0型の再来となるのでしょうか。筆者は、やはり政府がどれだけお金を社会に供給し回すことができるか、がポイントになると考えています。バージョン2.0では消費増税分(の一部)を財政再建に回したために、それまでであれば何らかの消費に回っていたはずの資金が吸い上げられる格好となりました。これが景気停滞に繋がった可能性は否めません。財政再建も重要であることに異論はありませんが、アベノミクス1.0の成功を見る限り、デフレ脱却にはむしろ資金を社会に潤沢に提供することの方が(借金返済に資金を充当するよりも)効果的であることは明らかです。バージョン3.0でも同様に、資金の吸い上げではなく、資金供給という形をどれだけ確保できるか、が問われることになると筆者は予想します。多くの政党が公約に掲げた教育無償化などは、それだけ民間で浮いたお金が消費に回るため、有効な資金供給策の一つになるはずです。衆院解散時に安倍首相が「2020年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字化目標」の旗を事実上の降ろしたことも、資金供給路線への期待感に繋がり、16連騰の下支えになったと考えます。

すると、焦点は借金返済など緊縮財政色の濃い政策がどの程度打たれてくるか、となるでしょう。資金供給を強化する一方、資金の吸い上げも増加させるようであれば、バージョン1.0の時のような期待感は生じてこないと考えます。連騰する市場をみれば、むしろ失望感すら生じてくるかもしれません。バージョン1.0型のアベノミクスが提唱されれば、バブル後の戻り高値更新への期待は一気に高まるのではないでしょうか。

コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

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