第283回 NZドル下落の背景【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

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第283回 NZドル下落の背景【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

NZドルが大きな下落に見舞われています。9月23日のNZ総選挙で第3党となったNZファースト党は10月19日、第2党の労働党と連立を組むことを公表。労働党政権が誕生することで、NZは9年ぶりの政権交代が実現します。

労働党とNZファースト党の政策方針には、移民流入抑制や外国人の不動産投資への制限、(中国資本による不動産価格の高騰が問題視されているようです)環太平洋経済連携協定(TPP11)への反対などが挙げられていますが、為替市場で注目されているのは「中央銀行法の改正」です。

NZの中央銀行にあたるRBNZは、1989年、世界に先駆けてインフレ・ターゲットを導入しました。今では世界の中央銀行が当たり前のように責務として掲げているインフレ・ターゲットですが、(日銀も2013年1月に「中長期的な物価安定の目途」を「物価安定の目標」に変更、物価上昇率を1%から2%に引き上げましたが、その時点において先進国でインフレ・ターゲットを導入していなかったのは日本くらいでした。)これを最初に導入したのがNZだったのです。現在の世界経済環境からは考えられませんが、1980年代のNZの年間の物価上昇率は18%にも高騰していました。これに対処するためRBNZは1989年にインフレ・ターゲットを導入し、政策金利をコントロールすることでインフレ抑制を責務としてきたのです。現在のインフレ・ターゲットは1%~3%に設定されており、この範囲内に収まるように金融政策が決定されています。

現在、NZの政策金利は過去最低の1.75%です。過去最低とはいえ、ゼロ金利政策が続く日本と比較すれば高金利。金利があるということは、利下げも可能です。政策金利を引き上げる、あるいは引き下げるという伝統的金融政策でのインフレコントロールが可能な状況です。つまり、NZは物価上昇が顕著になってくると、RBNZの利上げの思惑が高まりNZドルが買われるというような予想が成り立つということです。こうした背景から、NZの貿易収支に占める割合の大きい乳製品の価格動向や、消費者物価指数の動向には注目が高く、指標が発表されるとNZドルが大きく動く傾向があります。

NZの消費者物価指数の発表は四半期毎。先般10月17日に第3四半期のCPIが発表されました。第2四半期の数字が0%に落ち込んでおり、予想が0.4%のところ、結果が0.5%といい数字となりました。通常であればNZドルが買われてもいい内容だったのですが、政治の混乱がNZドルを圧迫し、NZドルはインフレ指標に反応して上昇することが出来ませんでした。

労働党はRBNZの政策目標に「物価の安定」だけでなく「完全雇用の達成」を追加することを求めており、NZファースト党はインフレ・ターゲット制を廃止し、NZドル相場の安定を重視した金融政策への移行を提唱しています。どのような形に収まるかは、成り行きを見守るしかありませんが、雇用の達成までをRBNZが担うとなれば、物価だけを見て金融政策を決定することが出来なくなります。

現在、物価だけでなく雇用の最大化まで2つの責務を担っているのが米連邦公開市場委員会(FOMC)やオーストラリア準備銀行(RBA)です。デュアル・マンデートと呼ばれる2つの使命があるため、為替市場は毎月の米雇用統計に注目しているのです。非農業者部門雇用者数(NFP)と賃金上昇率が注目され、米金利が動きますね。同様にNZでもインフレが加速していても、雇用環境が悪ければNZは利上げすることができないということになる可能性があるのです。今後NZドルも雇用の数字に注目する必要が出てくるかもしれません。

こうしたリスクが足元でNZドルの下落を加速させています。NZはインフレだけに焦点を絞ることができなくなってしまうのでしょうか。政治の安定と「中央銀行法の改正」要求の行方を見極めなければ、NZドルを値ごろで買うのはリスクが大きいと思われます。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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