第294回 2018年はドル安の1年?!ドル高期待は実らぬ可能性【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第294回 2018年はドル安の1年?!ドル高期待は実らぬ可能性【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

2018年は利上げから3年目に入る米金融政策より、新味のあるECBや日銀の金融政策の引き締めに焦点がシフトすることから「ドル安の1年」となりそうだ、と前回のコラムに書きましたが、市場には、昨年末に成立したトランプ政権下の税制改革法案による減税効果で、米国に資金が還流し投資が増加するためドル高となるとの見通しも存在します。米国企業の海外留保利益は、ムニューシン米財務長官の推定では3兆ドル、市場の推定で2兆6,000億ドルと推定されており、この巨額のマネーが動く可能性が為替市場に及ぼすインパクトについては各所で議論されています。

※米国の税制改革法案の目玉とされる法人税減税の「本国投資法第2弾(HIA2)」は法人税税率35%を米国内に戻す際、1回限りの制限付きで、現金は15.5%、低流動性資産については8%の税率を適用することが決定しています。

先週1月17日、アップルのCEO/クック最高経営責任者は、海外保有資産を本国に還流して380億ドルを納税し、今後5年間に300億ドルを国内に投資して2万人の雇用を創出すると発表しました。本国に資金を還流させることをレパトリエーション(以下、レパトリ)と呼びますが、このアップルのレパトリ宣言を受けて、17日のNY為替市場でドル/円相場は1ドル110円台から111円台前半へ上昇、ドル買いが起こりました。アップルによるレパトリ宣言が他企業にも及ぶとの思惑も広がったかと推測されますが、レパトリは海外資産を米国に戻す過程で、ユーロからドル、円からドルへとドル買いが起こると想定されるため、プログラムされたアルゴリズムトレードによるドル買いだったと思われます。実際、ドル買いは短時間に留まり、足元ではドル売りが旺盛です。

アップルの昨年9月末時点のキャッシュと市場性証券の総額は2,690億ドルと発表されています。このうちアップルが納税するとした380億ドルを15.5%の税率で逆算した場合、アップルの海外滞留利益のほぼ全てが米国内へ還流する計算となります。この380億ドルもの納税の過程で、為替にはどのような影響があるのか?!実はアップルがこの海外資産をどの通貨建てで保有していたかが正確に把握できなければわからないのです。もし、欧州通貨建てで資産保有していた場合、米国に納税するときにはユーロからドルに換える必要があるため、ユーロ売りドル買いです。円建てだった場合は円売りドル買いですね。しかし、アップルの海外資産がすでにドル建てだった場合はどうでしょう。ドル資産を米国に送金するだけです。為替市場には全く影響はありません。

3兆ドルもの資産が米企業の海外保有資産として見込まれているものの、約55%が欧州に投資されており、欧米の金利差などから、大半がドル建てでの運用となっているとの指摘もあります。現実問題、企業は海外で利益を上げた資金をその当事国のキャッシュのまま保有しているとは限りません。米国に戻すことはしなかったものの、何らかの形で運用していたはずです。ここからは推測にすぎませんが、ユーロや円はゼロ金利です。ドルは2015年から利上げサイクルに入っており、金利が多少ついていますね。巨額であればあるほど、利回り格差からドルで運用していた方が得であることはあきらか。この本国投資法がなくても、すでに米企業の海外資産はドルで運用されていると考えるのが自然でしょう。ひょっとしたら、その資産は米国債に投資されていたかもしれません。これが債券からキャッシュに換金されるという動きが活発化すれば、米国債券利回りは上昇します。年初からの米債利回り上昇は、本国投資法が影響しているのかもしれませんね。

また、米国長期債利回りが上昇しても、ドル/円相場がこれに相関しなくなっていることもポイントです。米国長期債利回り上昇で米国株に大きな調整が入れば、リスクオフ。為替市場では円買いが旺盛になる可能性が高いのです。このように考えていくと、レパトリ減税効果でドル買いという可能性は低く、やはり、前回コラムに書いたように、欧州、日本の金融政策の転換をテーマにしたユーロ買い、円買いが強まる可能性の方が高いように感じています。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

TwitterAccount
@hirokoFR

マネックスからのご留意事項

「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

マネックスメール登録・解除

コラム一覧