世界最大級の運用資産規模を誇る投資信託会社、バンガードがお届けする運用コラム。世界経済を大局的にとらえ、正しい運用のあり方を示唆します。(現在は更新しておりません)
米国ではおよそ7500万人のベビーブーマー世代(1946年から1964年生まれの現在41歳から59歳の世代)がいて、その初めの層がいよいよ引退を目前にしています。このため一部の投資家の間では、引退するベビーブーマー世代が株式市場へもたらす影響を危惧する声が聞かれます。一つの可能性として挙げられるのは、ベビーブーマー世代が引退後の生活資金を確保するため、資産を売却し、それによって株式市場が急落するというものです。
確かに人口統計上では、ベビーブーマー世代の層は厚く、市場への潜在的な影響力は未知数です。 しかし、専門家はいくつかの要因からベビーブーマー世代の市場への影響力がそれほど大きくないとみており、株式市場の悲観的な予測に疑問を呈しています。
「ベビーブーマー世代からの売り圧力は、多少はあるかもしれません。しかし、人口の動向だけで米国株式市場の暴落という最悪のシナリオが起こる可能性は非常に低いと言えるでしょう」スティーブン・アトキン氏(バンガード・リタイヤメント・リサーチ・センター責任者)
アトキン氏は、突然の大暴落が起こる可能性が低い理由を以下のように説明しています。
1.通常、市場の暴落は短期間に突然起こるとされますが、ベビーブームの期 間はおよそ20年間にわたっており、その世代が引退するのも20年から30年 間かかるとみられます。従って、ベビーブーマーが引退して株式市場から 突然資金を引き上げるとは考え難く、むしろ長期にわたって資産を少しず つ売却していくと予想されます。
2.別の要因として挙げられるのは、米国の10%の富裕層が、個人投資家が保 有している株式全体の88%を所有しているということです。それらの富裕 層は、保有資産を資金化せずに相続にまわし、分配金で生活していくこと が可能と考えられます。(出所: Arthur B. Kennickell A Rolling Tide: Changes in the Distribution of Wealth in the U.S., 1989-2001)
3.多くのベビーブーマー世代が保有銘柄の大半を売却したとしても、おそら く買い手は現れるでしょう。 ジェネレーションYと呼ばれる世代(1980年 代~1990年代生まれ)は、ベビーブーマー世代とほとんど同じくらいの規 模で、ベビーブーマーの売却資産の購入が見込める世代と考えられます。 また、基金や財団などのように、資産が加齢の影響を受けにくい集団もい ます。仮にベビーブーマー世代の引退の影響で、株式の年間リターンがわ ずかに下がったとしましょう。しかし、1970年代ではインフレと不景気で 株式の年率リターンは以前のおよそ半分までに下がったのです。マクロ経 済の停滞による株価の変動によるインパクトは、引退するベビーブーマー 世代からよりもはるかに大きいといえます。
ただし、それが正常な市場変動の範囲なのか、人口動向によるものなのか、技術革新や社会政治的な変化に由来するものなのかの違いはあれ、リスクは常に株式市場に存在しています。市場から受ける影響をできる限り緩和するために、バランスよく分散投資されたポートフォリオを保有するのが最も賢明な対応策だということを知るべきでしょう。
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