世界最大級の運用資産規模を誇る投資信託会社、バンガードがお届けする運用コラム。世界経済を大局的にとらえ、正しい運用のあり方を示唆します。(現在は更新しておりません)
今回の『バンガード・海外投資事情』では、米国経済の現状と今後の景気動向に関するコラムをご紹介させて頂きます。(2009年3月3日に米国バンガードのウェブサイトに掲載されたコラムの和訳です。)
今回の景気後退は過去70年において最長・最悪の後退であり、2008年4半期の米国の国内総生産(GDP)の成長率は年率換算で前期比マイナス6%超と、1980年代初頭以来最も低くなりました。2009年もこのまま行くと同様の水準になることが予想されます。その主な原因として、失業率の上昇や米国の住宅価格の下落による信用収縮といった不安定な要素が絡み合い、金融市場の不安定さに繋がっていることが挙げられます。
特に消費と産業の後退は顕著です。米国民の資産は過去18ヶ月で15兆ドルも目減りしました。この15兆ドルという額は1年間の米国のGDP以上の額です。
●米国政府の景気対策のゆくえは?
米国政府はGDPのおよそ6%にあたる7,870億ドルの景気対策を発表し、今年後半から2010年にかけて実行に移す予定です。米国経済を本格的に回復させるにはこうした景気対策だけで十分なのでしょうか?残念なことですが、答えは「ノー」です。理由は7,870億ドルという巨額を投じても、米国民全ての雇用を守るには1.4兆ドルも不足しており、対策と現実に乖離があるためです。
景気対策はその他の対策とともに最悪の結末を防ぐ役割を果たすでしょう。ただ、その対策には代償が必要です。米国政府が大きく景気対策予算を組むとその分赤字が拡大し、景気対策と引き換えに、政府は今後何十年にも亘り膨大な財政赤字を抱え、より高い税率を次世代に課すことになるでしょう。
●米国政府は金融危機を乗り越えられるでしょうか?
米国政府が景気対策を成功させるには3つの課題があります。
最初の課題は「住宅問題」です。住宅の差し押さえ件数が増加するとともに、市場価格は下落し続けています。今後、住宅着工件数の減少や政府の住宅市場安定化策などによって、住宅価格の下落に歯止めがかかることが期待されています。これは住宅市場の回復を握るカギと言えるでしょう。
二番目の課題は金融市場における流動性の回復です。これは債券市場と短期金融市場における健全な取引の再開を意味します。この課題への対応に一番進歩が見られます。米国連邦準備制度理事会(F.R.B)が流動性向上に向けて対策を打っており、市場の流動性向上に向けたいくつかの政策が近々施行されるのに伴い、いっそうの前進が期待できるでしょう。
三番目が一番深刻な課題である、金融機関の支払い能力の回復です。この問題の解決は非常に困難で、米国財務省が金融機関のバランスシート上の不良債権をどのように処理するかにかかっていますが、このことは、好むと好まざるとに関わらず、経済活動の血流ともいえる資本の増加と信用取引の促進を妨げることにもなります。
金融市場の安定、特に支払い能力の回復なしに幅広い景気の回復は見込めません。米国財務省のこの先数ヶ月の対策を見ていきたいと思います。
●景気はいつ好転の兆しを見せるでしょうか?
景気の見通しが正しいのであれば、今年の夏までに様々な経済指標がやや上向きになるのを確認出来るでしょう。全ての指標が上昇することはありませんが、下落率は緩やかになると考えられます。今後、様々な産業や経済活動の指標とともに、住宅や消費動向などの多くの領域を横断的に見ていく必要があるでしょう。
残念なことですが、回復は過去50年間のどの回復期よりもゆっくりとしたものになるでしょう。その最大の理由は、過去の経済の回復は、旺盛な個人消費(貯蓄よりも消費に充てたことによる家計の貯蓄率の低さ)、そして住宅産業や市況産業の発展によってもたらされ、牽引されてきました。今回はより米国政府主導で行われると考えられます。それに伴い家計の貯蓄率は上昇するでしょう。過去2~30年間における米国民の貯蓄率は非常に低かったため、貯蓄率の上昇は長い目で見れば経済の建て直しに有効と言えますが、この先2、3年の回復がより穏やかになるのは言うまでもありません。
●株式市場の見通しはどうでしょうか?
市況のニュースは今現在の出来事に焦点を当てて報道します。「株式市場は底を打ったか?」「3ヶ月先、6ヶ月先の株式市場の行方は?」といった具合です。率直に言ってしまうと、"未来が見える水晶玉は誰も持っていない"のです。投資家にとって、より重要なことは、自分のポートフォリオを構成するさまざまな金融資産の適切な長期の期待リターンを認識しておくことでしょう。
我々バンガードはこの点に関して甚大な時間を割いて調査しています。私たちが推定したグローバル株式市場の10年間の期待リターンは、8%から10%を中心レンジとしてその周辺に幅広くばらつくというものでした。そして、過去10年の実績を見ると、うれしいことでは有りませんが、やはり実際に大きなばらつきが有りました。
こうした推定結果は、歴史における重大な変化をよく観察することで導き出されました。これまで米国経済は幾度とない下げ相場や、多くの景気後退や不況を経験し、米国を取り巻く世界も変化しましたが、長期的な期待リターンのファンダメンタルズ、生産性の上昇率、企業収益率、バリュエーションは私たちの推定の正しさを裏付けています。そして、現在のように過去12ヶ月のリターンが非常に悪い時にこそ、このことを思い起こし、悲観的になりすぎないようにしたいものです。
注)投資にはリスクがあります。債券への投資へは金利リスク、信用リスク、インフレリスクが伴います。分散投資は利益を保証するものでもマーケット下落時に損失を防ぐものではありません。過去のパフォーマンスは将来のリターンを保証するものではありません。
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