日本の生産性は、OECD諸国と比べると見劣りします。これは、要素に分けて見てみると、生産性がおしなべて低い訳ではなく、生産性が下がってしまった企業やビジネスがそのままの形で残っていることが全体の足を引っ張っていることが分かります。これは、やりようによってはまだまだ日本の生産性を大きく上げられる可能性があることを示唆していると思います。
例をふたつ挙げてみます。或る有名上場企業は、歴史も古く、戦後その時その時の社会・世界の需要に応えて次々に違うモノを製造してきました。それらはとても品質の高いものですが、何十年も前に作られた生産設備は既に陳腐化しています。それでも尚、素晴らしい顧客リストと販路を持ち、ブランドもあり、品質も管理されています。ただ生産性が低く、利益も出ない体質になっています。
同じモノを、或る新興企業は現代の考え方と現代の生産方法で作っているので、生産性がとても高いです。ただ販路もブランドも弱いです。このケースでは、既存有名企業がその古くなったビジネスを、販路その他も含めて丸ごと新興企業に売却すると、既存企業は生産性の低い部門がなくなるので企業全体の生産性が上がり、新興企業は既存企業の生産要素のうちヒト、販路、ブランド、品質管理など利用できるものを利用するので、生産性を更に上げることが出来ます。しかも雇用は概ね維持される可能性があるでしょう。こうすると、両企業双方の生産性だけでなく、社会全体の生産性が上がります。
或いは別の例では、A・B・C社が、それぞれ甲・乙・丙というモノを作っていて、一社あたりのシェアはそれほど高くありません。そして甲はA社が得意で、乙はB社が得意で、丙はC社が得意です。このケースでは、甲ビジネスはA社に統合し、乙はB社に、丙はC社に統合することで、各社それぞれの生産性が上がり、甲乙丙に関するABC社の世界シェアも上がり、よってこの部分に関する日本社会全体の生産性が上がります。
このような生産要素の交換は、かつては財閥の司令塔が行ったり、或る時代は当時の通産省(現・経産省)が介入していたのだと思いますが、財閥解体、持ち合いの解消による銀行ガバナンスの減退、そして官の介入を排除する風潮などから、気が付くと企業に対してこのような生産要素交換の提案とプレッシャーを掛ける外部主体がいなくなってしまったのではないでしょうか?それが私が考える、これからの日本で大きな可能性のある、「エンゲージメント」の領域です。
今後このような取り組みを大きく深く行っていくことにより、日本の資本市場の活性化、株価の上昇、延いては日本社会の生産性の上昇を目指して、当社グループとして活動していきたいと考えています。
過去の「松本大のつぶやき」はこちら(マネクリへ移動します。)