金融テーマ解説

チーフ・アナリスト 大槻奈那が、毎回、旬な金融市場のトピックについて解説します。市場の流れをいち早く把握し、味方につけたいあなたに、金融の「今」をお伝えします。

大槻 奈那 プロフィール

間(ま)の悪いイタリア国民投票「否決」~総じて影響軽微だが金融業界には重石

□ イタリア国民投票「否決」。総じて織り込み済みだが、佳境のイタリア大手銀行再建プロセスへの影響は要注意
□ イタリアの国の格付けは「BBB」レンジぎりぎり。今回の結果を受け見通しが「ネガティブ」に引き下げられると一層資金が集まりにくくなる
□ 来年の欧州の選挙は要注目だが、当面はイタリアやドイツの金融機関の動向も注視

目先最大の注目は金融システムの再建
日本時間の今日開票されたイタリアの国民選挙では、改憲案が「否決」された。レンツィ首相が即刻辞任を表明したため、マッタレッラ大統領が後継者を任命するか、総選挙に向けて議会を解散するかを決める。仮に新首相が任命されても、議会が不信任を決議すれば総選挙となる(後掲図表3参照)。

相次ぐ欧州諸国の選挙は当面の欧州のテーマである。しかし、今回の結果は市場で予想されていた通りであり、為替市場も比較的落ち着いている。

これに対して、より喫緊の課題は、欧州の金融システム再建である。イタリアの大手行の株価はこの2年弱で、ウニクレディトで3分の1、モンテパスキで5分の1になった(図表1、2)。

これらの2行の巨額増資を含む再建策が、現在ヤマ場に差し掛かっている(図表3)。その意味で、今回の国民投票はタイミングが悪い。再建が計画通りの条件で進むのかどうか。以下の3つのリスクが注目される。

リスク1:増資の可否とその条件
イタリア第3位の銀行・モンテパスキは、現在壮大な再建計画を履行中である。最大のハードルは増資で、年内に50億ユーロ、約6,000億円の発行を行う計画である。この金額は現在の同行の時価総額の7倍以上である。これに先立ち、11億ユーロの劣後債務の株式化(DES)と、285億ユーロの不良債権処理も行わなければならない。モンテパスキは、既にこの2年間で2度、合計80億ユーロの増資も行ったが立ち直れなかっただけに、市場の不信感は根強い。

また、12/13には、イタリア最大の銀行・ウニクレディトの新事業計画が発表される。これには、モンテパスキの3倍近い1.6兆円の増資計画が盛り込まれると報じられている。報道が事実とすれば、ウニクレディトの現在の時価総額124億ユーロ(1.5兆円)とほぼ同額の増資となる。モンテパスキとウニクレディトの合計増資額は2.2兆円と、一度に行われるイタリアの民間増資としては過去最大級である。

イタリアの国民投票が「否決」され、首相交代で揺れる政治情勢の元で、これらの増資が無事全額実現できるのかどうかがカギとなる。

リスク2:景気後退
前述の通り、モンテパスキは、285億ユーロ(3.2兆円)の不良債権を処分する計画だ。これで、モンテパスキの不良債権比率は44%から16%へと大幅に低下すると見込まれている。

しかし、イタリア全体の不良債権額は昨年末時点で3,600億ユーロ(約43兆円)とされる。その後処理は進んでいるものの、今回のモンテパスキの処理額は、この1割にも満たない。

このイタリアの不良債権額は銀行の資本合計額の1.6倍程度となっている。邦銀が再建を進めていた2000年代初頭と同程度である。日本の場合、政府がりそなや地銀に公的資金を注入し、小泉政権の各種施策で景気と不動産価格が浮揚したことで金融システムは持ち直した。これに対してイタリアでは、来年度1%程度の成長しか見込まれておらず(IMF)、不動産価格も下落を続けている(図表4)。

抜本的な再建を目指す2行にしても、景気が後退すれば不良債権が再び増加しかねない。金融問題解決には、政府が経済対策を打ちつつ、銀行が一見余剰にも見えるほどの資本を準備し市場を安心させることが必要である。現在のパッケージでは、特に国の施策が不十分と思われるが、政局が不安定化する中では、政府の援護射撃を期待するのは難しいだろう。

リスク3:ソブリンの信用力
現在イタリア国の格付けは、ムーディーズとS&Pの2社からそれぞれ「BBB-/BBB」、見通しは「安定的」と評価されている。しかし、これらの格付けは2014年以降変更されていない。今後の政治情勢次第では、アウトルックが「ネガティブ」に引き下げられる可能性は十分ある。格付けが「BBB-/ネガティブ」となった場合、BBレンジ以下の"ジャンク"に落ちるリスクが格段に高まり、イタリアには海外からの資金がますます集まりにくくなる。

今後の見通し
イタリアの国民投票の結果が海外の経済に与える影響は比較的軽微である。しかし、イタリア国内の景気や金融システムに対する影響は無視できない。

来年の欧州の政治的イベントが要注目なのは言うまでもないが(日程は図表5)、年末から年明けにかけては、上記のイタリア大手行の再建施策の行方や、依然霧の晴れないドイツ銀行の動向などにも注意したい。

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