金融テーマ解説

チーフ・アナリスト 大槻奈那が、毎回、旬な金融市場のトピックについて解説します。市場の流れをいち早く把握し、味方につけたいあなたに、金融の「今」をお伝えします。

大槻 奈那 プロフィール

2017年の展望:久々に銀行セクターに明るい兆し

■日米金利差は引き続き拡大で円安トレンドは継続。リーマン・ショック前に比べて企業の海外進出が進んでいるため、為替の収益影響も鮮明
■連綿と続いた金融規制厳格化も来年始めについに収束、金利底打ち期待との両輪で銀行株を押し上げると予想
■リスク要因は引き続き海外だが、いずれも一時的な動揺に留まり、大きな「リスクオン」の方向性は持続すると予想

1.2017年の金融環境:日本の金融政策に大きな動きはなく、日米金利差拡大へ

2016年は、1月にマイナス金利導入が発表されて以降、日銀の金融緩和に市場の注目が集中した。2017年も金融政策は注目されるが、来年のフォーカスは、金利水準自体よりも、日米の金利差である。日本はまだ緩和的であるのに対し、米国は引き締めを加速するという逆方向の動きが続くため、金利差は拡大傾向にある。

これまで、米国の金融政策は(時期のブレはあっても)概ね他地域と同一方向に向かうことが多かった。今回のように、長期間逆の方向が続くのは、日本が不良債権処理に追われる一方、米国がラテンアメリカ/S&L(貯蓄金融機関)危機から回復した90年代半ば以来20年ぶりのことである。

2017年、トランプ政権による景気刺激策や政策金利引き上げから、米国10年物金利は更に0.5%~1%ポイント程度上昇するとみられる。一方、日本の金融政策は微調整に留まるとみられる。円安効果による景気持ち直しや原油価格上昇の波及による物価上昇が期待できるためだ。金利はやや上昇傾向とみられるものの、日銀のイールドカーブ・コントロールの影響で大きくは動かないだろう。日米の金利差は、10年ぶりの水準に達し、これを反映したドル高・円安が進むだろう(図表2)。

企業業績も確実に回復すると思われる。リーマン・ショック前に比べて様々な企業が海外進出を図っていることから、為替レートの収益影響はもはや輸出企業だけに留まらない。円安はこれまでも企業収益のトレンドを左右してきたことから(図表3)、18/3期(来期)は増益の会社計画を提示する企業も多いとみられる。

2. 銀行セクターに久々の"春"の訪れ:年央以降、規制の落ち着きと金利底打ちの相乗効果

2017年央以降、短期金利底打ちが意識される
年後半からは18年4月任期満了の日銀黒田総裁後の金融政策が焦点になる。円安が続く限りマイナス金利深掘りのリスクも低く、むしろ、年末以降は、ポスト黒田総裁の出口戦略の議論が徐々に活発化するだろう。

銀行株価の長期金利との相関関係は高い。しかし、長期金利の上昇だけだと、収益への恩恵は極めて限定的である。むしろ、貸出のベースとなる短期金利(主にTibor)の上昇が収益強化のためには重要である。

図表4の通り、過去15年間でTiborが安定的に上昇したのは、2005年の景気回復期だけである。この際は、長期金利の上昇もあって、実際にTiborが上昇し始める約1年前から株価は上昇し始めた。

現時点ではTiborに上昇の兆しは見えない。しかし、長期金利の上昇やLiborの底打ちから、仮に、Tiborが来年央以降にわずか1bpでも上昇すれば、将来への期待と、株価純資産倍率0.7倍という現在の低水準の株価から上昇余地は大きい。なお、Tiborが10bp上昇すると大手行全体で1,000億円の増益となる計算である。過去には約1年で70bp上昇したこともある。その半分の20~30bpの上昇でも、計算上は2,000~3,000億円=今期会社計画税前利益の1割の増益要因となりうる。

規制厳格化の流れも落ち着き
リーマン・ショック後の8年間は、金融規制の厳格化が続いていたため、いくら金融緩和を行っても、結局金融機関は保守的にならざるを得なかった。しかし、2017年は大きく潮目が変わる。年初に規制資本比率の分母に当るリスクアセット計算厳格化が最終決定し、09年以降連綿と続いてきたバーゼル3資本規制がほぼ終結する。1月の決定自体は大手行の資本比率を1~2%ポイント程度悪化させ、元の比率に戻すのに2~3年を要することになりうるが、この規制が発表されれば、世界の金融機関は、当面、更なる規制厳格化の恐怖に身構える必要がなくなる。

国内の金利も横ばいから徐々に上昇に向かい、かつ、規制強化も終結する来年、特に4月以降は、金融セクターに10年ぶりの「春」が訪れるだろう。

金融環境から考える注目のサブセクターは大手行。国内利鞘の低下ペースが和らぐことに加え、海外業務の拡大、為替効果(10円円安になると業務純益が200~300億円押し上げ)が期待される。半面、地方経済に明るさが出始めたものの、依然として資金利益がプラスに転じるには時間がかかる。なお、リース、住宅関連は、昨年までの不動産価格の上昇や金利低下の落ち着きから足踏みに向かう可能性がある。

3.金融市場のリスク要因:
海外の動きは一時的に「リスクオフ」を促すが、大きな流れは「リスクオン」

周知の通り、2017年は、欧州の選挙が集中する。国民投票を終えたイタリアの総選挙説もあり、3月にはオランダ、これに4月~6月のフランス大統領選挙と総選挙、9月のドイツの総選挙が続く。右派が勢力を増し、保護主義的な傾向が強まる可能性もある。イタリアや英国の金融機関の財務は依然として脆弱であり、最終処理が課題だ。また、米国の財政リスクが強く意識されれば、過度な市場金利上昇に繋がるというリスクもある。

これらのリスクが表面化した場合、一時的な「リスクオフ」で円高に向かう可能性もある。しかし、来年の金融環境や日本企業のファンダメンタルズの回復という大きな流れから、これらはいずれも短期的な後退に留まるだろう。

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