チーフ・アナリスト 大槻奈那が、毎回、旬な金融市場のトピックについて解説します。市場の流れをいち早く把握し、味方につけたいあなたに、金融の「今」をお伝えします。
銀行株急落:「落ちてくるナイフ」はつかめるか
●今週、銀行株が急落、年初来安値を更新している。最大の要因は金利の低下である。加えて、シェアハウス融資問題やカードローン保証の引当金、新興国リスク等も売り材料になっている。
●銀行株のPBRは過去最低水準まであとわずかとなっており、下値は限定的だろう。かつて銀行株は1Qに株価が上昇しやすい傾向があったが、この数年は逆に1Qは下落しやすくなっている。
●株価下落で配当利回りは上昇し、大手行の一角では4%を上回っている。今後下値が限定されると考えれば、配当狙いの長期投資であれば十分検討の余地がある。一方、株価の大幅な反転の期待も持ちにくく、短期の値上がり期待での投資はしばらく様子見が得策。
銀行株急落の背景
邦銀株の下落が続いている。6/21に年初来最安値を記録したが、本日も下げが止まらない。日本株全体も弱いが、銀行セクターの弱さが群を抜いている(図表1)。
背景にあるのは、金利の低下である。1週間物の銀行間取引金利Tiborは、昨日初めてマイナス圏に突入した(図表2-1)。5年物国債利回りもここのところ下落している(図表2-2)。
1週間物Tiborや中長期の国債利回りは、銀行の収益に対して直接的には殆ど関係がないが、貸出基準金利(主に3か月・6か月Tiborやプライムレート)に間接的に影響する。このため、銀行株は歴史的にも中長期金利との連動が極めて高い。
金利以外にも悪いニュースが連発
さらに、このところ、銀行にとって悪いニュースが続いている。例えば、多額に保有する外債の含み損の問題、スルガ銀行の「かぼちゃの馬車」シェアハウス投資に関する不正融資問題、カードローン保証の引当金増加、新興国リスクなどである。これらもある程度は、銀行株の売り材料になっているとみられる。
今後の見通し
かつては、第一四半期(1Q)は、債券の機関投資家がリスクテイクに走るので、金利が上昇しやすいというアノマリー(市場のクセ)があった。この恩恵を受け、銀行株も第一四半期に上昇しやすい傾向があった(図表3-1)。
しかしこの数年は、日銀の低金利とイールドカーブ・コントロールの影響で、こうしたアノマリーが消滅した。むしろ、最近の銀行株は、期初に自社株買いや増配が発表されて盛り上がったあと、1Q後半から反落する傾向がみられる(図表3-2)。
では、現在の銀行株下落を一時的とみて、「落ちてくるナイフ」をつかむのは得策だろうか。
現在の銀行株の株価純資産倍率(PBR)は、過去最低水準に近づいている。東証株価指数に対しても出遅れが目立つ(図表4)。海外ショック勃発等の最悪シナリオを想定しても、銀行の財務の健全性を考えれば、ここからさらに1割を超える下落は考えにくいだろう。
下値が限定的だとすれば、現在の高い配当利回りは魅力的である。あおぞら銀行(8304)、みずほフィナンシャルグループ(8411)、三井住友フィナンシャルグループ(8316)などの配当利回りは、軒並み4%を上回っている((図表5、6/22前場終値ベース)。中長期的な配当利回り狙いとして、0.01%程度という銀行預金に預けている資金の一部をシフトすることも選択肢だろう。
一方、短期的には、銀行株の本格反転のきっかけは見つからない。今年の初め、我々は、金利上昇が今期下期から意識されはじめると考えていた。しかし、足元で物価上昇ペースが鈍っており(図表6)、想定以上に金利は上がりにくそうだ。欧州の金利も正常化まで時間がかかるうえ、米国も今年あと2回の利上げが織り込まれており、さらなる金利上昇の加速は期待しにくい。
先にあげた金利以外の悪材料は緩和されるとしても、それだけでは銀行株反転の材料としては力強さに欠ける。配当狙いの長期保有としてなら投資妙味は十分ありうるが、短期的な値上がり期待での投資は当面様子見が得策だろう。
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