今週の特徴:楽観と懸念の間
今週は、前週末にギリシャが7月5日に債権者側が求める緊縮の是非を問う国民投票を実施する方針が明らかになり、デフォルトの可能性が高まったことから、円急上昇で始まった。但しその後は、ギリシャと債権者側の合意への期待感が高まったことや、1日発表の米経済指標の予想比上振れを受けて、米中長期債利回りの上昇と共にドル高が進行した。2日発表の米雇用統計が市場予想を下回ったことからドルは反落したが下落は相対的に小幅に留まっている。なお、今週は鉄鉱石、乳製品や原油などコモディティ価格が下落したことから、カナダドルやNZドルの下落率が大きかったのも特徴だった。
ドル/円:今週レンジ121.94~123.73円 (想定より若干下振れ)
(前週時点の予想:122.5~124.5円)
ドル/円は、ギリシャ情勢とそれを反映した米中長期債利回り動向を睨んだ展開となった。週末にTsiprasギリシャ首相が債権者側が提案する改革案について7月5日に国民投票を実施する旨を表明したことから、6月末まで第2次支援について合意に至る可能性が著しく低下し、対IMF債務のデフォルトの可能性が一気に高まったことから、週明け早朝には週末の124円丁度近辺から一時122.11円へ急落して始まった。そして7月1日にはデフォルトの実際の悪影響顕現化への懸念から、一時121.94円へ続落し安値をつけた。
もっとも、その後はTsiprasギリシャ首相が条件付で債権者側の改革案を受け入れる姿勢を表明したことから楽観的な見方が広がり、また米ISM製造業景況指数やADP民間雇用統計などの重要指標が市場予想を上回ったこともあって、2日の米雇用統計発表に向けて米中長期債利回りの大幅上昇と共に一時123.73円の高値をつけた。
但し、米雇用統計が市場予想を下回り、非農業部門雇用者数が市場予想を下回り過去計数も下方修正され、かつ平均時給前年比が+2.0%と前月および市場予想を大きく下回ったことから、123円割れへ反落、3日金曜の東京時間は123円丁度近辺でやや頭重く推移している。
ユーロ:今週レンジ1.0955~1.1278ドル、133.78-138.113円 (想定を大きく下振れ)
(前週時点の予想:1.100~1.140ドル、136.0~140.0円)
ユーロ/ドルも、ギリシャ政府の国民投票実施方針の決定を受けて週明けに1.11ドル台後半から一時1.0955ドルの安値をつけたが、ドイツよりも米国の方が利回り低下が大きかったためか、すぐに1.1278ドルへ反発し先週末の水準を上回った。30日から1日にかけてギリシャのデフォルトが確定した際もユーロの反応は殆どみられなかった。 むしろ、その後はギリシャ情勢の進展への楽観が米中長期債利回りの上昇とドル高に繋がったことから、米経済指標の予想比改善を受けたドル高もあって、ユーロ/ドルは1.10ドル台半ばへ反落した。米雇用統計の予想比下振れはドル安要因だったが、週末のギリシャ国民投票を前に積極的なポジション造成が手控えられたためかあまり反応はみられず、3日の東京時間は1.11ドル丁度近辺で推移している。
ユーロ/円は、週明けはドル/円とユーロ/ドルが同時に下落したことから、先週末の138円台前半から一時133.78円へ急落して始まった。但しその後はユーロ/ドルの動きに概ね沿った動きとなり、29日中に一時138円丁度を回復した後は、30日に136円割れへ反落、週末にかけては概ね136円台で横ばい圏内の推移となった。
豪ドル:今週レンジ0.7567~0.7739ドル、92.68~94.99円 (想定より下振れ)
(前週時点の予想:0.765~0.785ドル、94.5~96.5円)
豪ドル/米ドルは、ギリシャのデフォルト懸念を受けたリスク回避的な動きの影響を殆ど受けず、週明けも0.76ドル台半ばから0.76ドル割れへの小幅安にとどまり、むしろ1日にかけては0.77ドル台へじり高となり0.7739ドルの高値をつけた。もっとも、その後はギリシャ情勢への楽観や米経済指標の上振れを背景とした米ドル高により反落、2日には米雇用統計発表に向けて0.76ドル割れへ下落した。予想を下回る米雇用統計発表を受けて0.76ドル台半ばへ反発したが、3日には豪5月小売売上高が市場予想を下回る伸びに留まったことを受けて再び下落し、3日午前までで0.7567ドルの安値をつけている。
豪ドル/円は、ギリシャのデフォルト懸念の高まりを受けて週明けに94円台後半から一時92.68円へ急落して安値をつけた。その後は豪ドル/米ドルと同様の動きとなり、1日にかけて94.99円へ上昇し高値をつけたが、その後反落し3日には再び93円台前半へ続落している。
(今週のレンジ実績は月曜から金曜昼頃まで、数値はBloombergより)
来週の見通し:欧州(エレキテル)連合は、ダメダメ?
来週は、週末5日のギリシャ国民投票の結果如何で大きく変わってくる。債権者側の改革案に対してイエスとなるのが市場が想定するメインシナリオの模様で、その場合は、目先のイベントリスクからくる不透明感の後退から、米中長期債利回りの上昇とドル高・円安に繋がりそうだ。他方、ノーとなる場合にはギリシャのユーロ圏離脱、欧州連合(EU)離脱のリスクが一気に高まることになり、リスク回避的な動きから米中長期債利回りが低下しドル安・円高となりそうだ。ギリシャ問題に対するユーロ/ドルの反応関数は一筋縄ではいかないが、米利回りとドルの変動を通じたチャネルが短期的には大きそうだ。
米ドル/円:予想レンジ121.5~124.5円
ドル/円は、5日のギリシャ国民投票で、債権者側の改革案に対してイエスの場合は、目先のイベントリスクからくる不透明感の後退から、米中長期債利回りの上昇と共に124円台半ばの「黒」天井を試す展開となりそうだ。他方、ノーとなる場合にはギリシャのユーロ圏・EU離脱のリスクが一気に高まることになり、リスク回避的な動きから米中長期債利回りの低下と共に122円方向動きとなりそうだ。
なお、ギリシャ国民投票でイエスの場合には、米経済指標にも反応しやすくなりそうだ。来週は6日にISM非製造業景況指数、7日に貿易収支、8日に6月FOMC議事要旨、そして10日にYellen・FRB議長講演が予定されている。中でも貿易赤字が予想比大きくなると、ドル高の景気への悪影響が嫌気されるかたちとなり、利上げ期待の若干の後退とドル安に繋がりそうだ。
ユーロ/ドル予想レンジ:1.080~1.140ドル ユーロ/円予想レンジ:133.0~139.0円
ギリシャ問題に対するユーロ/ドルの反応は一筋縄ではいかなそうだが、米利回りとドルの変動を通じたチャネルが短期的には大きそうだ。 国民投票で債権者側の改革案に賛成多数となる場合には、Tsipras首相や緊縮財政反対派の勢力低下と、ECBによる短期的な流動性支援再開による銀行再開、および第3次金融支援に向かう可能性が高まり、ギリシャのユーロ圏離脱リスクの後退から、米利回りとドルの上昇と共に、ユーロ/ドルは下落しそうだ。他方、ドイツ10年債利回りの上昇と共にユーロが上昇する、というシナリオもあり得るが、最近はそうした動きはみられていない。なお賛成多数が僅差の場合には、Tsipras首相が居座るリスクが残り、市場ではあまり好感されないかもしれない。 他方、反対多数となる場合、交渉決裂とギリシャのユーロ圏・EU離脱の可能性が高まり、当面の混乱の可能性を嫌気してリスク回避的な動きとなりそうで、米利回りとドルの低下圧力を受けてユーロ/ドルはむしろ上昇しそうだ。他方、ギリシャ、イタリア、スペインなどの周縁国債券利回りの上昇とドイツ利回りの低下(=対独スプレッドの拡大)、はユーロ安要因だが、こうした場合にはECBが債券購入プログラムの対象として周縁国債券に重点を置いたり、量的緩和の前倒し・拡大といった措置を取る可能性が逆に高まり、悪影響は和らげられそうだ(ECB追加緩和自体は、特にECBのバランスシート拡大に繋がる場合にはユーロ安要因だが)。
豪ドル/米ドル:予想レンジ0.740~0.780ドル 豪ドル/円:予想レンジ92.0~95.0円
豪ドルもある程度、ギリシャ国民投票を受けた米ドル相場の動向の影響を受けそうだが、豪州では7日にRBA理事会、9日に豪雇用統計発表が予定されており、特に豪雇用統計では、前月6.0%へ予想外に低下してRBAの利下げ期待を後退させた失業率が再び上昇に向かうかが注目される。市場予想は6.1%だが、それ以上に上昇すると利下げ期待が再び高まり、豪ドル安に繋がりそうだ。なお、RBA政策理事会では政策変更は予想されておらず、声明文でも豪ドル安を望む文言に明確な修正は加えられない可能性が高く、材料となりにくそうだ。
(※)印刷用PDFはこちらよりダウンロードいただけます。